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入学して半年、清香が変わった、と気づいた。
肩を出すような服を着るようになった。
そういうのは似合わないから、と言っていたのに。
「清香、風邪ひくんじゃないの?」
「ひかないよ。今からバイトだから。じゃあね」
俺に笑顔を向けることが少なくなった。
まーくん、とあまり呼ばれなくなった。
そして、とびきり綺麗になったのだ。
大学では『清香は雅史とできている』なんて言われることもなくて、学部が違えば俺たちを二人とも知っている人間はほとんどいなかった。
始めの頃に清香が紹介してくれた、高坂という女の子に、たまたま出会ったとき尋ねてみた。
「清香、もしかして彼氏とかできた?」
「えっ?雅史くんにまだ言ってないの?雅史くんにはすぐ言わなくちゃねって話してたのに」
「……できたんだ」
「ずっとお守りしてもらってたからやっと解放してあげられるって笑ってたよ。清香、ああ見えて世話焼けるもんね。ずっと保護者代わりみたいな感じだったんでしょ?」
「……どこの人?」
「バイト先のお客さん。宮下さんて言って、26歳だったかな?イケメンだよ〜」
「そっか、清香に報告しろって文句言わないとな」
「そだね、雅史くんもこれで安心して彼女作れるね」
清香がどんな風に俺のことを話しているのかなんとなくわかった。
それよりも、あの清香に彼氏ができてしまったのだ。
自分ののろまさに嫌気がさす。だが、どうしようもない。
関係性に安心して、あぐらをかいていたのは俺なのだ。
でもまあ、どうせ別れるだろう。
ならば俺はこれからも、清香のそばから離れなければいいだけだ。そう思った。
そんなある日、夕飯の買い物に出掛けようとアパートの階段を降りたところで、清香と彼氏に鉢合わせた。
「あ、ま、」
まーくん、と言おうとして清香は口ごもった。
「どうも。清香の幼なじみです」
俺は、宮下というスーツの男に軽く頭を下げた。
「高坂さんから聞いてる。彼氏できたなら安心だわ」
「ありがと」
清香は話し方まで変わった気がする。
「俺、今日はサークルの飲み会なんだ。ごゆっくり」
嘘をついて、しばらくアパートから離れた後、足音をたてないよう注意しながら自室に舞い戻った。
アパートの壁は薄く、押し入れの壁は清香の寝室に接していた。押し入れにたいしたものを入れていないから、音をたてずに滑り込めた。
――それから、宮下が清香の部屋に来るたびに、俺は押し入れの中で息を殺した。
清香の変化を、食い止めたかった。
聴くだけで、食い止められるわけがないのに。
だけど、知りたかったのだ。少しでも。
変わってしまった清香のことを。
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