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「一ヶ月以上裸は無理だろう?」
自室に引き上げた千種に、無遠慮に問い掛けた。
ノックもせずに、部屋に入る。
「……なに。海老原さんはなにが言いたいの」
「言ってもいいのか?俺の口から?」
「……っ、さいていっ……」
「俺は深水のように鈍くないし、お前の年齢を考えれば普通のことだろう」
千種は15歳になっていた。
「深水には知られたくないのかもしれないが……まあ、当然か。あいつが描くのは『女』ではないから」
わざと、確認するように言ってやる。
もうその前提は崩れているが――崩れているからこそ、この娘にわからせておく必要がある。
「体調が優れないとでも言って月に数日引きこもるか?さすがに深水も気づくかもな」
「……東先生に、正直に、」
「打ち明けたら、お役御免だろうな、お前は」
「…………」
「心配するな。引き取り先は目星をつけている。お前に初潮がきたときから」
「……っ!!!!」
触れれば切れそうな眼で、千種は俺を睨んだ。
むくむくと、膨れる。
例の、黒いものが。
「なんだその顔は。さっきから話していたのはそういうことだろう?デリカシーがないとでも?この家でそれを求めるのはお門違いだ。女を抱く深水を何度覗いた?」
にやにやと、顔がにやけるのを止められない。
千種が『少女ではない』証拠を暴く日を、
千種に『お前はもう使えない』と宣告する日を、
心待ちにしていたのだろう。俺は。
「だいたい、最初からそういう『契約』だっただろう?」
「……そんなこと、海老原さんに言われなくたって、私がいちばん、わかってます」
一言ずつ区切るようにして、千種は言った。
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自分の部屋に深水を招き入れ、酒をふるまった。
「どうして裸を描きたくなったんだ?」
同じ質問を、敢えて繰り返す。
もしや、と思うことがあった――思い違いだという確信が欲しかった。
「やけにこだわるね。もしかして世間の噂とか、気にしてる?」
「知っていたのか」
「それはまあ、籠ってても自分のことだからね」
「世間の噂は今更どうでもいい。……千種は15歳だ」
「そうだね。見えないよね」
「はぐらかしているのか?」
「……あのさ、海老原はいまだに、千種のことが嫌い?」
「あれだけの敵意を向けてくる人間を好きになれという方が難しいだろう。とはいえ、好き嫌いは関係ない。お前に必要な人間なら受け入れるだけさ」
口先だけ、と内心で自分を揶揄しながらも、全くの嘘というわけではなかった――いや、そうありたいと思っていた。
「そっか、うん、海老原は、そうだよね」
淡い笑顔をこちらに向けて、深水は酒杯を呷った。
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