短編そのた | ナノ


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14歳の千種を描いた絵が、完成した。


この一年、深水はたびたび女を抱いた。

千種のことは、これまでと何も変わらず、大事に扱った。





『二作目』に、覚悟はしていた。


だが、飲み込まれた。



千種を初めて見た時の、あの感覚が巨大な怪物の形をとって、大きな口を開けて襲ってくるイメージ――と言っても、理解されないだろうか。


簡単な言葉にするなら、不快と恐怖――――だが同じくらい、キャンバスの中の千種に欲情していた。


実物には何も感じないのに。

相変わらず、年齢よりも幼く見えるあの少女には、何も感じないというのに。


「だが、この絵は……」



もはやこれは、女だ。



深水は女を描いている。


気づいていないのだろうか、あの男は。



薄ら寒い予感が、ほとんど確信に近い予感が、脳を支配する。


深水はこれまで、モデルを媒体にして『少女という生き物』を描いてきた。

それは、気に入った娘でなくてはならないが、誰でもよかった。
 

だが、今は。

千種という生き物を、描いている。




深水にとって、それは悪いことではないのかもしれない。

日本の芸術界にとっては、むしろ良いことなのかもしれないが。



――絶望しているのは、俺だけなのだろう。



自分には理解できない、深水。

深水を『理解できない』存在へと変えた、千種。


駄々をこねているわけではない。

憎んでいるわけでもないだろう。千種を疎ましく思ってはいるが。


だが、明らかに、俺は絶望していた。


当人がその理由を説明できないのだから、他人にそれを訴えることはできないし、そこに正当性もない。


ただ、あの日の――深水のクローゼットで泣きじゃくっている千種を見たときに浮かんだあの感情が、腹の中でむくむくと膨れていくのは、間違いのないことだった。






「裸の絵――?」

「うん、寒いかな、千種が。寒くなってきたし」

「それはこの娘なら平気だろうが……」


三人が居間に揃ったある日、深水がそう切り出した。


無言の千種を無視して俺が応える。



「今までそういう絵は描いてこなかっただろう?」

「着物を着るか、ワンピースを着るか。こちらからしたらその違いと大差ないと思うんだけど……本人には抵抗があるかなと思って聞いてみたんだ」

「だそうだが?千種」



振り返ると、千種は自分の膝を握って俯いていた。

豪奢なソファにちょこんと座る少女は、立っているときより余計小さく見える。


「……あ、の」

「やっぱり恥ずかしい?見るのは僕だけだけど」

「出来上がった絵は皆が見るがな」

「そんなことはいいの」


相変わらず、千種は俺と話すときには刺々しい。


「あの、東先生……それってどれくらい?」

「ん?いつも通りだよ。どんなに短くても一ヶ月はモデルとしてアトリエに立ってもらうことになるよ。その倍以上かかることもあるかもしれないけどね、いつかみたいに」


穏やかに答えた深水とは対照的に、千種は尚更、顔を曇らせた。


「……少し、考えさせてください」



千種が深水の願いを二つ返事で受けなかったのは、初めてのことだった。





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