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好きなように扱えばいいと言ったくせに。
これ以上絶望などしないと言ったくせに。
人間の絶望などというものは、簡単に上書きされてしまうらしい。
腰を動かすたびに、彼女は湿った吐息を漏らしながら、涙を零した。
歯を食いしばり、時に大きく息を吸い込み、それから浅い呼吸を繰り返す。
何かに縋るように、手を床に這わせても、それを受け止めるものはない。
その右手は仕方なく、破り捨てられた白いワンピースの切れ端を掴んだ。
「痛いのか」
彼女は首を振る。
左手の人差し指を強く噛みながら。
「やめてほしいか」
彼女は首を振る。
俺は白い左手を掴んで床に押さえつけた。
「だったら何故そんな顔をする」
彼女の唇が、動いた。
く、る、し、い。
揺さぶられながら、音を出さずに紡ぐ。
苦しい。
苦しい。
「そうか」
もしも声が出せるなら。
この女は一体、どんな声で喘ぐのか。
想像して、まもなく俺は果てた。
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毎晩のように彼女を抱いた。
『歌え』と願う代わりに。
相変わらず、声を出さないこの女には何の価値もないままだが、やわらかな舌の感触だけは嫌いではなかった。
指を口内に這わせると、この頃、彼女は自分から、舌を絡ませる。
俺が満足すると知っているからだ。
だが、それでも――毎晩、彼女は泣いている。
嫌なら言えと、何度か言ってやった。
それでも彼女は首を振る。
そのくせ、涙を流す。
苦しそうに。
彼女が泣くたびに、抜け殻のその身体が、潤っていくような錯覚に陥った。
その歌声のごとく、本当に天使にでもなるつもりなのか。
俺に抱かれることを、何だと思っているのか。
そんなことは、考えても仕方ないことだったから、『泣くなら声を出せばいいのに』と、俺はそれだけを考えていた。
聞こえない彼女の声。
それが、俺を何度も、絶頂に導いた。
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