短編そのた | ナノ


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好きなように扱えばいいと言ったくせに。

これ以上絶望などしないと言ったくせに。


人間の絶望などというものは、簡単に上書きされてしまうらしい。



腰を動かすたびに、彼女は湿った吐息を漏らしながら、涙を零した。

歯を食いしばり、時に大きく息を吸い込み、それから浅い呼吸を繰り返す。


何かに縋るように、手を床に這わせても、それを受け止めるものはない。

その右手は仕方なく、破り捨てられた白いワンピースの切れ端を掴んだ。



「痛いのか」


彼女は首を振る。

左手の人差し指を強く噛みながら。


「やめてほしいか」


彼女は首を振る。

俺は白い左手を掴んで床に押さえつけた。


「だったら何故そんな顔をする」


彼女の唇が、動いた。


く、る、し、い。


揺さぶられながら、音を出さずに紡ぐ。



苦しい。

苦しい。



「そうか」



もしも声が出せるなら。

この女は一体、どんな声で喘ぐのか。


想像して、まもなく俺は果てた。



****



毎晩のように彼女を抱いた。


『歌え』と願う代わりに。


相変わらず、声を出さないこの女には何の価値もないままだが、やわらかな舌の感触だけは嫌いではなかった。


指を口内に這わせると、この頃、彼女は自分から、舌を絡ませる。

俺が満足すると知っているからだ。



だが、それでも――毎晩、彼女は泣いている。



嫌なら言えと、何度か言ってやった。

それでも彼女は首を振る。

そのくせ、涙を流す。

苦しそうに。



彼女が泣くたびに、抜け殻のその身体が、潤っていくような錯覚に陥った。



その歌声のごとく、本当に天使にでもなるつもりなのか。

俺に抱かれることを、何だと思っているのか。



そんなことは、考えても仕方ないことだったから、『泣くなら声を出せばいいのに』と、俺はそれだけを考えていた。



聞こえない彼女の声。


それが、俺を何度も、絶頂に導いた。



****





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