短編そのた | ナノ


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『カズマが思ってるよりは頑丈だよ』


そうであってほしいのか、ほしくないのか。


そんなことを考えてしまうのは、愚かで弱い証拠だ。


「俺は、物語の皇帝とは違います」

「そうだろうね」


かの皇帝と違うのは、自覚があること。

妻がいなくなれば、国ひとつ滅ぼしてしまいかねないほどに、自分は危ういと。


何事も起こっていないというのに。

自覚している事実に、失う妄想に、その恐怖に――時折飲み込まれてしまいそうなほどに、愚かで弱い。


どちらがましだろうか。

皇帝と、俺と。



「大丈夫。カズマはまだ、何も失ってなんかいないから」


失ったことのある父は言う。


今日の物語が『出来の悪い昔話』であることを、柄にもなく俺は願った。



****



それから、白髪の吟遊詩人と会うことは二度となかった。

噂も聞かない。


今も彼女は、生きているのだろうか。


皇帝を殺した鎖は、妃を縛り付けたままなのだろうか。



だとしたら、俺は何があっても、かの皇帝になるわけにはいかないのだった。


end




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(8/9)

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