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「父上、なぜあの吟遊詩人を呼んだのですか」
深夜。
広間に残っているのは、父と俺だけだった。
「不思議なことを言う人だったからだよ。面白いなって」
父の答えは、やはりというか、単純なものだった。
「前回はどんな物語を?」
「んー、内緒」
「はあ……」
父は、自分のグラスにワインを注ぎ、口をつけた。
少し前から二人とも、自分の酒は自分で注ぎ足している。
「それにしても、男っていうのは本当に、弱いね」
ぽつり、と父は呟く。
「……父上は母上を亡くしても国を滅ぼしたりはしていません」
「そりゃまあ、カズマがいたからねえ」
何と言葉を返せばいいのか、少し迷う。
いくつかの意味が込められている気がしたからだ。
「まあ何にしても、男より女の方が、よっぽど頑丈にできてるよ」
情けないけど、と父は笑う。
「リンさんもね。風が吹いたらふわふわ飛んでいっちゃいそうだけど。カズマが思ってるよりは頑丈だよ」
『それ』を、感じたことがないわけではない。
――非力な女。温室育ちの姫君。守ってやりたい、唯一の妻。
それは彼女の一面であり、全てではない。
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