短編そのた | ナノ


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「カティーナ」


今の今まで知らなかった。


『貴方を失ったらわたくしは生きていくことができないから』


それは妻ではなく、私の方だったのだ。



これから、どうすればいいのかわからない。

何をすべきなのか、わからない。


私の帝国?守るべき民?

そんなものが、何だというのだ。


私が失ったのは妻だけ。

他はまだ全て、この手の中にある。


だが、私は全てを、失った。



「カティーナ」


涙が零れる、音がする。

心が壊れる、音がする。



強くなどなかった。

彼女がいれば何でもできた私は、彼女がいなければ、何もできない。


全部だった。

本当に。

彼女は私の全部だった。


知っていたはずだったのに、わかっていなかった。

思い違いをしていたのだ。


強く正しい皇帝であろうとしていた私は、とうの昔に死んでいた。

私はただ、彼女のために、強く正しい皇帝であろうとしていた。

その彼女が死ねば、どうなる。


私は、どうなる。



――どうにでも、なればいい。

どうにでも、すればいい。


弱くて愚かな、ただの男を。





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