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ますます厄介なことになった。
もう収拾がつかない事態だ。
「お前たち、シンデレラを愛していると言いながら、何故シンデレラの思いを聞こうとしない。愛する者が一番に望むことを受け入れる、それが真実の愛ではないのか」
魔法使いは杖を一人一人に突き付け、落ち着いた声音で言い放った。
昨夜はカボチャだの何だの言っていたのに別人のようだ。
「相手の言葉を聞かず自らの感情をぶつけるだけでは、それは独りよがりにすぎない」
図星だったのか、三人は一瞬押し黙る。
「な、何だと!?きみはわかると言うのか、シンデレラの望みが!」
「愚問だな、俺は魔法使いだ」
「な、何ですって!?言ってみなさいよ!」
「――だ、そうだ、シンデレラ。言ってみろ」
「シンデレラに聞くの!?」
全員の視線が再び私に注がれる。
「望み、って……」
魔法使いを見ると、彼は大きく頷いた。
私の望みを叶えてくれる、ということだろうか。話の流れからすると。
昨夜も怪我を治してくれたし、悪い奴ではないのだ、きっと。
信じてみよう――そう思えた。
深く息を吸い込み、顔を上げる。
「私は、一人で平穏に楽して暮らした、」
「この女は俺の弟子になりたいそうだ」
――――は、はいいいいい!!!???
さっきの美辞麗句はどこへ。
そしてこの男、思い返してみれば最も人の話を聞かない人間だった。
「というわけで、シンデレラは俺がいただいていく。邪魔したな」
信じる心を一瞬で砕かれ愕然としている私を肩に担ぎ、魔法使いはすたすたと家を出て行った。
「ま、待ちたまえ!」
「待ちなさいよ!」
「この泥棒猫!」
「もういいではありませんか、殿下」
「もう…いいじゃない…あなたたち…」
最後に聞こえたのは、彼らのそんな微かな声だった。
****
「さて、帰るか」
魔法使いは私を担いだまま、当然のことのように言った。
「待ってください。何ですか、弟子って。困るんですが」
「困るか」
「はい。魔法使いになるなんて面倒ですし」
「王子やオカマや女の嫁になるよりもか」
「……いくらかましですかね。弟子の仕事内容によりますが」
「だろう」
今さりげなく弟子入りを承認させられたような気がする。
とはいえ確かに、誰とも結婚せずにすむ上にあの家から出ていくこともできるというのはあの場では最善の結果だ。
まあいいか、と怠惰な私は受け入れる。
それにしても一夜にしてこれほど人生が変わるとは、世界にはたくさんの罠が仕掛けられているものだ。
できるだけ平坦な道を歩きたいと願っていてさえも、こうなのだから、恐ろしい。
ともあれ、私は継母たちから虐げられる居候ではなくなり、妃になることもなく、女装男や姉の嫁になることもなく、魔法使いの弟子として新しい人生を歩き出した。
問題は、この魔法使いが全く得体のしれない男だ、ということくらいだ。
人の話を聞かない、ということ以外何もわからない。
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