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「シンデレラ?気持ちを伝えたからにはもう虐めたりしないわ。わたくしとふたりで生きていきましょう?家事はわたくしがやるから」
下の継姉は私の手を取って微笑んだ。
「小さいおねえさま、家事できないじゃありませんか」
「愛の力でどうにかするわ」
「しなくていいです」
「まあ、わたくしのために愛の手料理をこれからも作ってくれるの?」
「そういう意味ではありません」
何故ここにいる人間はみんな他人の話を聞かないのだろう。頭痛はとっくにしているが、ついに気が遠くなってきた。
「シンデレラ姫!庶民の相手ならいくらでも代わりがいるが王子である私の妃たりえる女性はきみだけだ!さあ、早く城に戻ろうではないか!」
「ふざけないで!シンデレラはあたしのものよ!おにいさまもっといじめてくださいって言わせてやるんだから!ね、シンデレラ!?」
「わたくしは野蛮な人たちとは違うわ。やさしく愛してあげてよ?わたくしとともに遠い国に行って二人で暮らしましょう?シンデレラ」
「シンデレラどの、いっそ全員の愛を受け入れて大変なことになってしまうというのはいかがですか」
最後の発言は完全無視するとして、そもそも何故この中から選ばなければならないのか。
私は誰かと恋愛関係になるなんて面倒なことをする気はないというのに。
「あのですね、私は……」
「決めたか!シンデレラ姫!」
「誰と結婚するの!?」
「わたくしよね?」
「シンデレラどの、どうなのですか」
「いえ、私は……」
四方から迫ってくる求婚者たち。
継母は灰になっていて助けてくれそうにない。
ここで誰も選ばなければ、求婚者たちに延々と付き纏われるのだろう。
かと言ってこの中の誰も選びたくはないし、結婚自体したくない。
どうする。
どうすればいい。
「この女はお前たちとは結婚しないと言っているぞ」
「あ……」
――満を持して現れた、この声は、この姿は、このジト目は。
「だ、誰だ!?」
「魔法使いだ」
そう、諸悪の根源・魔法使いである。
「きみ、シンデレラ姫とはどういう関係だ!?」
まず王子がツカツカと魔法使いに詰め寄った。
「眩しい」
「あんた何勝手に家に入ってんのよ!」
上の継姉(男)が魔法使いの襟首を掴んだ。
「お前よくも特注の靴を割ってくれたな」
「ちょっと顔がいいから何だというの?」
下の継姉が何故かひがみっぽく魔法使いの頬をつねった。
「昨夜見ていたが夜の食べ過ぎには気をつけた方がいい」
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