短編そのた | ナノ


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と。


「いい加減に……しなさいよおおおっ!!!!」


怒声とともに、ガラスが割れる派手な音が響き渡った。


さすがに驚いて顔を上げると――

「大きいおねえさま……?」


顔を真っ赤にして肩で息をする上の継姉が、仁王立ちをしていた。

その足元には、粉々になったガラスのハイヒール。

どうやら、継姉が奪い取って叩き割ったようだ。


とりあえず助かった。

何故かすごく、継姉が怒っているけれど。


「この子が王子様の嫁になんて……なるわけないでしょう?」


ああ、なるほど。

やはり私が玉の輿に乗るのが我慢ならないらしい。今回ばかりは私の嫌われっぷりに感謝したい。

よかったよかった。


「この子はねえ……あたしの嫁になるのよ!!!!」



――――はい????



ぽかんと口を開ける、私、王子、じじい、そして継母。


「あ、あのう、お嬢さん……落ち着い、」

「どこ見てもの言ってんのよじじい!あたしは男よ!!!!」



――――はい??????



瞬きも忘れて凍りつく、私、王子、じじい。

継母は頭を抱えている。


「あなた、それはシンデレラの前では言わないって約束したでしょう……」

「約束なんて律儀に守ってる場合だと思うの!?いい?よく聞きなさい、シンデレラ。あなたを家にもらうと決まった時、お母様はあたしに女装をするように言ったの。あなたがあたしをたぶらかしたりしないようにね」

言いながら、継姉はブラウスのボタンをひきちぎり、勢いよく上半身裸になった。


「でもそんなことは無駄だったわ!あたしはシンデレラに一瞬でくびったけになっちゃったんだから!」


――いや、あの、――はい????


「よ……よくばれなかったな」

王子が言う。そこは問題ではないと思うのだが、彼も混乱しているのだろう。

「女装は昔からの趣味なの。ばれない自信はあったわ」


「シンデレラどののどこに好意を……?」

じじいが尋ねる。本当にどうでもいいことだが、彼もまた混乱しているのだ。

「冷めた目よ」


「だ、だってあなた、私と一緒になってシンデレラを虐めてたじゃない……?」

継母がわなわなと唇を震わせる。その疑問はもっともだ。


「好きな子をいじめたいタイプなのよ!!!!」



そ、そうですか。



「いいこと!?王子様、あんたなんかにシンデレラは渡さないわ!さっさとお城にお帰りなさいな!」

不敬にも王子に人差し指を突き付ける継姉、いや兄。しかも上半身裸。下はスカート。

「断る!!!今の兄君の言葉を聞いて確信した、シンデレラ姫は絶対に私の運命の相手だ!冷たい目がこんなにも魅力的な女性は他にいない!」

「どうしてもシンデレラが欲しいと言うのなら、私を倒して奪い取りなさい!」

「望むところだ!」

王子が剣を抜き、継姉…兄がこぶしを握る。


何故私の意志を完全に無視して私の所有権争いが始まろうとしているのか。


「仕方ありませんな、審判は不肖この私が務めさせていただきましょう」

厳かな空気を醸し出しながら、じじいが二人の間に進み出た。

「では、お二方、ご用意はよろしいか?レディー――――」



じじいの手が挙がる。



その時。

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