▼
翌朝。
「ねーえ、シンデレラ?あなた昨夜、ずっと家にいたわよねえ?」
「はい、おかあさま」
「ドレスを着て舞踏会になんて、行っていないわよねえ?」
「はい、おかあさま」
私は、継母の問いに棒読みで答えながら洗濯物を干していた。
もちろん今は、貧相なワンピースとエプソン姿に野暮ったい髪型の、いつもどおりのシンデレラだ。
「そうよねえ、あなたが私たち三人より美しいなんてこと、あるわけないものねえ」
「はあ」
美醜の基準は人それぞれなので私は特に意見しませんが。
「……それにしても、さっきから何だか玄関の方が騒がしくないかしら?」
「はあ」
ぼんやりしていて気付かなかったが、言われてみれば確かにうるさい。
「誰か来たのかしら、こんな朝早くから」
継母が眉を潜める。
と。
「お母様!大変よ!お城から王子様がいらしたわ!」
上の継姉が血相を変えてこちらに駆け込んできた。
「なんですって!?」
「なんでも昨夜の舞踏会で巡り逢った運命の相手を探しているらしいわ。全ての家を確かめて回っているらしいの」
出た。
また出た。
なんとしつこい王子だろう。暇なのだろうか。
「あなたは舞踏会には行っていないのだから王子様に会う必要はないわね、シンデレラ。そのあたりに隠れてなさい」
「ええ、もちろんです」
継母の意地悪が功を奏した。感謝したい。
私はすぐさま押し入れの中に身を隠した。
するとその直後に、王子一行が居間に現れたようだった。
「マダム、この家に若い女性はこちらのお二人だけか?」
「はっ、はい!この二人は私の娘、僭越ながらたいへん器量良しに育ったと自負しておりますわ!」
「そうか、ふむ…………どうやらお二人は私の探す姫君ではないようだ」
「そ、そうですか」
どうやらあっさりと終わりそうだ。
私は胸を撫で下ろした。
しかし、
「王子殿下、殿下は他人の顔を記憶なさるのが大変苦手でございましょう?一応、例のものでご確認なさった方が確実かと」
年配の従者らしき声。
「それから殿下、私の勘でございますが、この家にはもう一人、女性がおりますな」
――どんな勘だ。しかも鋭い。
「なに!無類の女性愛好家であるそなたが言うのだから間違いないな!マダム、隠し立てはよくないぞ、正直に申せ!」
え……?女性愛好家って何ですか。怖いんですが。
そしてこれは、まごうことなき、危機的状況。
「そ、それは、そのう……」
「わ、私たちには妹なんておりませんわ!ね、お姉様!?」
「え、ええ!妹なんておりませんわよ!」
「妹君が、いらっしゃるのですな?」
「ひいいっ!」
「何故ばれたの!」
「シンデレラなんていませんわ!」
「シンデレラどの、とおっしゃるのですな?」
馬鹿だ。私の家族は馬鹿だ。馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、馬鹿だ。
prev / next
(7/13)