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「やっと見つけたぞ!我が愛しの姫君!」
出た。
金髪が出た。
騒々しくてしつこくて人の話を聞かない王子に再び遭遇してしまい、私は絶望した。
ちょうど会場から出てきたところらしく、こちらをきらきらした瞳で見下ろしている。眩しいので布か何か被っていてもらえないだろうか。
「お久しぶりです王子様。ではさようなら、ごきげんよう!」
一瞬でも振り返ってしまったことに後悔しながら、私は回れ右をして駆け出した。
「待ってくれ姫君!結婚の約束はどうするんだ!名前も住んでいる場所も知らなければどうしようもできない!」
「約束をした覚えはありません!ごきげんよう!」
「待つんだ!待ちたまえ!待ってくれ!」
王子がものすごい速さで私を追い掛けてきた。
無駄に美形なせいで鬼気迫る表情が怖い。今日はやたらと美形を見ている気がする。疲れるからあまり目にしたくないというのに。
「姫君ィィィィ!!!!」
「いやあああ!来るなあああ!!!」
反射的に、持っていたガラスのハイヒールを王子に思いきり投げ付けてしまった。
「ごふっ……!」
まずい。打ち首にされるかもしれない。その前に逃げなければ。
王子の安否も確認せず、とにかく私は必死で走った。
ドレスの裾をがっしりと持ち上げて、裸足のまま、ひたすら走った。
こんなに体力を使ったのは初めてかもしれない。いや、家事は体力を使うものだが、種類が違う。これは本来なら必要なかった体力消費だ。許すまじ、魔法使い。
幸い追っ手はついていないようで、私はなんとか家まで帰りついた。
足の裏が痛い。汗が止まらない。
おまけに真夜中までまだ少し時間があるせいで元に戻らないドレスが息苦しい。
「お風呂に入ろう……」
普段は三人より先に入ることを禁じられているが、もう一度洗って沸かせば問題ないだろう。
苦心してドレスを脱いで、お湯に潜る。
「しみる……」
もちろん足の裏のことだ。
「酷い仕打ちを受けた」
独り言を呟くと。
「それはこちらの台詞だ。なぜ脱いだ」
「……おい。痴漢」
突如浴室に現れた魔法使いが、ジト目で私を見下ろしていた。
「裸体に興味はない。なぜ脱いだ」
「なぜって……汗だくだったからですが」
「おまけにガラスの靴を捨てて帰るとは。ドレスはお前の服に魔法をかけて作ったものだが靴は俺のサービスだったというのに」
「知りませんよ、というか頼んでませんし。とりあえず風呂から出てってください」
「よりによってあんな王子に渡すとは。面倒なことになるぞ」
魔法使いはそれだけ言うと、浴室のドアを開いて出て行った。
登場の仕方と退場の仕方が間違っている。
しかも、
「……文句言い忘れた」
おまけに、
「……足の怪我、治ってるし」
あの魔法使いは一体、何がしたいのだろう。
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