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「大丈夫です、すみません」
かなり身分が高そうだ。関わらないに越したことはないだろう。
目を合わさずに自力で立ち上がる。
すると、
「女性の身体に傷が残っては―――」
突如、男の声が止み、私はつい顔を上げてしまった。
きらきらした碧い瞳と、視線が合う。
「あの、何か……?」
なんとなく嫌な予感がして恐る恐る尋ねると。
「私と結婚してくれたまえ!姫君!」
「……はい?」
「そして未来の王妃にならないか!」
「…………はい?」
最悪な展開だ。
この金髪男はなんと、王子様だったらしい。
「一目で恋に落ちてしまった!お願いだ、私の妃になってくれたまえ!」
「いえ、お断りします」
「何故だ!私は王子だぞ!?」
「相手が王子様であろうとなかろうと関係なく結婚に興味はありませんが、王子様と結婚するというのはあまりにも面倒だからです」
「何!?王子との結婚は国中の女性の夢だと聞いたぞ!?」
「人によるのでは」
「そんな冷めたところもまた素敵だ!やはり結婚してくれたまえ!」
「人の話を聞かない……」
げっそりとため息をつくと、王子は無遠慮に私の両手を取った。
「私とダンスをすれば気も変わるだろう!さあ、王宮仕込みの華麗なステップをご覧に入れようではないか!」
無理矢理ホールの中央に連れて行かれる。
「いや、私ダンスなんて体力を使うものはちょっと……」
「不安に思う必要はないぞ!私に全て任せていれば、きみを誰よりも美しく舞う蝶に変身させてみせる!」
「虫にはなりたくありませんが」
「恥ずかしがることはない!愛しの姫君よ!」
周りの賓客たちがざわめく中、私は王子に引っ張り回されるようにダンスを踊るはめになってしまった。
「うむ!やはりきみは美しいな!天使のようだ!」
「お目を患っておいでなのでは……というかそろそろ離してください」
「きみが私の求婚を受けてくれるというのならばこの手を離そう!」
「え……」
さすが王子様と言うべきか、強引にもほどがある交換条件だ。
私が返答に窮していると――
「うわあ!なんだ!?」
「何も見えない!」
「きゃあ!」
「誰か早く明かりを!」
突然に、会場の明かりが全て消えてしまった。
「どうしたのだ?これは一体」
不慮の事故に救われた。
私はこの隙を逃さず、王子から素早く離れた。
疲れることは苦手だが、危険を回避するのは得意だ。緊急時の俊敏さには自信がある。
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