短編そのた | ナノ


▼ 

魔法使いは、長いため息をつくと、いきなり私の手を引いた。


「わかった。お前は城まで歩いて行くのが面倒だと言うんだな」

「そりゃ歩いてなんて行くわけないですけど、そもそも行かないとさっきから」

「馬車を出してやるからそれで我慢しろ」

「いやいや、だから……って、うわ!カボチャ!」


家から出るなり魔法使いが杖を振り、目の前にオレンジ色の馬車が現れた。


「自信作だ。一ヶ月毎日カボチャを食べ続け、30個分のかぼちゃの皮を集めて馬車にした」

無表情ながらどことなく得意げだ。

いやいや、そんな顔をされても。

「何故そこまでして馬車を」

「カボチャは大好物だ。苦痛ではなかった」

「はあ、そうですか」

心底どうでもいい、と思っていると。


「早く乗れ」

「うわ、いたい!やめてくれませんか!」

無理矢理馬車に押し込まれた。

全くもって意味がわからない。



「魔法は真夜中に解ける。それまでせいぜい楽しんで来い」


魔法使いの声に見送られ、御者もいない馬車は出発した。



「いや、楽しむも何も……」


明らかに、面倒なことが、私の身に、起こっている。



****



お城の前に着くと、馬車は忽然と姿を消した。

「帰れない……」


立ち尽くしていると、王宮の従者らしき身なりのいい男が近づいてきた。

「会場はこちらでございます。ご案内致します」

「え、いや……」


招待客ではない、と言うこともできず、導かれるままに城内に足を踏み入れてしまった。



会場では優雅な音楽が流れ、華やかな輝きが美しい賓客たちを照らしていた。

「うわ……」

うっとりして感嘆の声をあげたわけではない。

眩しい。騒々しい。面倒臭い。


どうしようもなく疲れそうだが、歩いてでも帰ろう。


そう決めて、さっそく回れ右をした瞬間。


「いたっ」

「うおっ!?」


ちょうど会場に入ってきた人物とぶつかり、尻餅をついてしまった。


「大丈夫かい、レディ?すまなかったね、どこか痛いところはないかい?」

中腰で手を差し延べてきたのは、明らかに他と違うきらびやかな身なりをした、金髪碧眼の見目麗しい男。

眩しい。目に良くない。


prev / next
(3/13)

bookmark/back/top




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -