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魔法使いは、長いため息をつくと、いきなり私の手を引いた。
「わかった。お前は城まで歩いて行くのが面倒だと言うんだな」
「そりゃ歩いてなんて行くわけないですけど、そもそも行かないとさっきから」
「馬車を出してやるからそれで我慢しろ」
「いやいや、だから……って、うわ!カボチャ!」
家から出るなり魔法使いが杖を振り、目の前にオレンジ色の馬車が現れた。
「自信作だ。一ヶ月毎日カボチャを食べ続け、30個分のかぼちゃの皮を集めて馬車にした」
無表情ながらどことなく得意げだ。
いやいや、そんな顔をされても。
「何故そこまでして馬車を」
「カボチャは大好物だ。苦痛ではなかった」
「はあ、そうですか」
心底どうでもいい、と思っていると。
「早く乗れ」
「うわ、いたい!やめてくれませんか!」
無理矢理馬車に押し込まれた。
全くもって意味がわからない。
「魔法は真夜中に解ける。それまでせいぜい楽しんで来い」
魔法使いの声に見送られ、御者もいない馬車は出発した。
「いや、楽しむも何も……」
明らかに、面倒なことが、私の身に、起こっている。
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お城の前に着くと、馬車は忽然と姿を消した。
「帰れない……」
立ち尽くしていると、王宮の従者らしき身なりのいい男が近づいてきた。
「会場はこちらでございます。ご案内致します」
「え、いや……」
招待客ではない、と言うこともできず、導かれるままに城内に足を踏み入れてしまった。
会場では優雅な音楽が流れ、華やかな輝きが美しい賓客たちを照らしていた。
「うわ……」
うっとりして感嘆の声をあげたわけではない。
眩しい。騒々しい。面倒臭い。
どうしようもなく疲れそうだが、歩いてでも帰ろう。
そう決めて、さっそく回れ右をした瞬間。
「いたっ」
「うおっ!?」
ちょうど会場に入ってきた人物とぶつかり、尻餅をついてしまった。
「大丈夫かい、レディ?すまなかったね、どこか痛いところはないかい?」
中腰で手を差し延べてきたのは、明らかに他と違うきらびやかな身なりをした、金髪碧眼の見目麗しい男。
眩しい。目に良くない。
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