▼ しんでれら!
いじわるな継母、同じくらいいじわるな二人の継姉。
掃除、洗濯、料理、家事の全てを押し付けられ、召し使いのような毎日を送っている。
私の名前は、シンデレラ。
「今夜、お城で舞踏会があるのよ。もちろんあなたは留守番ね、シンデレラ」
雑巾がけをしている私を見下ろして、継母が言う。
ええ、もちろん留守番で結構ですとも。
舞踏会なんて面倒な場所にわざわざ近寄ろうとは思いませんとも。
それより左手、踏んでるのでどけてくれます?いや、わざとでしょうけど。
「どう?うらやましいでしょう、シンデレラ」
既に派手に着飾った上の継姉が言う。
「いえ、別に」
そんなとち狂った色彩のドレスを衆目に晒すくらいなら、永遠に雑巾がけをしていたい。
「やあね、強がっちゃって。可愛くないんだから」
今から着替えるらしく下着姿のまま、下の継姉が鼻で笑う。
「はあ、どうも」
あなたのそのぷよんぷよんの可愛らしいお腹に比べればそれはもう、可愛さのかけらもないでしょうとも。
「あなたはいつもどおり、お掃除にお洗濯、明日の朝食の下ごしらえ、ぬかりなくね?」
「はあ」
そりゃまあ、暇ですからやりますが。
ひととおり厭味を言い終わると、三人はいそいそと支度に取り掛かった。
彼女たちの厭味は挨拶のようなものだからとうの昔に慣れているし、刃向かわなければ食事と寝床は確保できる。
お伽話の主人公のようなだいそれた幸せなど望んだことはない。そのためにはそれなりの代償が必要だろうからだ。
それくらいなら、平穏に、何事もなく、無感動に過ごしたい。
今が平穏なのかと聞かれれば多少の疑問は残るけれど、そこには目をつむろう。贅沢は言わない。
だから本当に、舞踏会に行きたいとは全く思わないし、むしろ疲れることは御免だと思っている。
綺麗なドレスも興味はない。動きにくいだけだ。
しかし、三人が揃って外出というのはなかなか素晴らしい。静かに夜を過ごせる。
大方、継姉たちが貴族あるいは王族の目にとまることを期待しているのだろう。その場で話が盛り上がって夜明かしでもしてくれればいいのに。
そんなことを思いながら、私は黙々と雑巾をかけ続けていた。
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