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『それでも不安だ』
そう、不安だ。
彼女を閉じ込めても縛っても、一瞬でも離れていることが。
――と。
妻の両手が、俺の頬をやさしく包み込んだ。
『だったらカズマ様も、ずっとここにいればいい』
甘い声がゆっくりと、夢の淵へ俺を堕としていく。
そうか。
ここにいればいい。
どこへも行かず、行かせずに。
そうすれば、彼女の全ては――俺だけのものになる。
『カズマ様』
彼女の右手に鎖を巻き付け、自らの左手にそれを繋ぐ。
『リン』
手を握っているはずなのに、彼女の手はどんどん冷たくなっていった。
『カズマ様』
それでも彼女は、俺の名前を呼ぶ。
『カズマ様』
とても幸せそうに。
『リン』
俺の名を呼ぶのは、お前だけでいい。
お前の名を呼ぶのも、俺だけでいい。
『カズマ様』
そうだ。そうやって、俺だけを見ていればいい。
俺だけを、見ていてくれ。
『カズマ様』
絶対に、ここから出しはしないから。
絶対に――
「カズマ様……?」
気遣うような声に、周囲の景色が変わった。
我に返り、顔を上げる。
絵本はいつの間にか、最後のページが開かれていた。
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