短編そのた | ナノ


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「その絵本、何か嫌なことでも書いてあったんですか?」

妻がこちらに手を伸ばす。

「顔色、悪いですよ……?」


遠慮がちに頬に触れた小さな手は、あたたかかった。



「いや。ただ、つまらなかっただけだ」

彼女の手に自分の手を重ねる。


自由な手。

青空の下がよく似合う、ひだまりの笑顔。



それを壊すのは、きっと簡単だ。


俺がそれを心から望めば、彼女は涙を浮かべながらも笑って従うのだろう。


俺の手で壊さなくても、望むだけで自ら壊れてしまう。



守らなければ、と強く思う。


あらゆるものから。

俺自身からも。




「リン」


名前を呼べば嬉しそうに首を傾げる妻に、俺は小さくキスを落とした。




****




木陰に置き忘れた絵本は、いつの間にかなくなっていた。

結局、あの絵本にはどんな物語が描かれていたのかを、俺は知ることができなかったのだった。



end





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