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「かわいい表紙ですね。カズマ様がそれ読んでる間、私もマリカさんに借りた本、読んでます」
妻は、深く追及することもなく、手持ちの本のページをめくり始めた。
いまだに、隣に座るときは人一人分の間を空ける彼女。
そのことに、微笑ましさと物足りなさを感じながら、俺も絵本に視線を戻した。
表紙の少女はやはり、隣に座る妻に、どこか似ている。
鳥籠には鍵。
周りには何もない。
少女は、助けを求めているのだろうか。それともひとりでいるのが寂しいだけなのだろうか。
閉じ込めたのは――俺か。
『カズマ様!私はカズマ様以外の人なんて、絶対に好きになったりしません……!』
涙まじりの妻の声に、俺の心臓は締め付けられる。
その言葉に――心に、嘘がないことは、誰よりも俺がよく知っている。
それでも。
『俺は、その証拠が欲しい』
『……証拠』
『どれだけ抱きしめても、不安だ。お前が俺以外の人間をその目に映すだけで、気が狂いそうになる程に、不安だ』
彼女を腕の中に包み込み、やわらかい髪をゆっくりと撫でる。
彼女は、一度だけ目を閉じてから、迷いのない瞳でこちらを見上げた。
『カズマ様。不安なら、私を閉じ込めてください。縛ってください。私がどこへも行けないように。――心は、もうずっと前から、どこにも行けないんです。だから』
ああ。俺はとっくの昔に、妻を壊してしまっていたのか。
そのことに、絶望と――微かな安堵を覚える。
そして俺は、彼女をさらに強く抱きしめた。
鼓動が直接、伝わる。
この距離が、愛おしい。
彼女を死ぬまで、離したくない。
それでも。
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