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「貸してもいいけど、」
「持ってるんだ。へんたい」
俺が口を開くと、いくみはジトッとした目でこちらを見た。自分で言っておいて。
「おいこらふざけんな。……あ〜、兄貴のだよ兄貴の」
俺は開き直ることもできず、大学生の兄貴に責任を押し付けた。もちろん嘘だ。
俺だって健全な高校生男子なのだから。
「な〜んだ、そっか」
こんどは『つまんない』という顔をするいくみ。何なんだ、失礼な幼なじみだ。
俺はその反応を無視し、話を続けた。
「貸してもいいけどどこで見る気だ。お前の部屋テレビないだろ。まさか居間で見るんじゃないだろうな」
「はっ……!」
いくみは驚愕に目を見開いた。
俺が言いたかったのはそこだった。エロビデオを所持しているかどうかを暴露したかったわけじゃない。
つまり、諦めろと言いたいのだ。
何がたのしくて幼なじみの女の子にそんなものを貸さなきゃならないのか。
しかしいくみは、懇願するような瞳でこちらをじっと見つめてくる。
「―――待て。絶対に嫌だぞ俺は」
目は口ほどにものを言う。いくみは特に思考パターンがわかりやすい。
それだけは断じて拒否する。
「いいじゃん!ハルトの部屋で見せてよっ!」
「馬鹿か!お前は俺を何だと思ってんだ!」
「ハルトはハルトでしょ?ミキも中学の頃、男子と見たって言ってたもん」
俺は呆れた。なんて不健全な中学生だ。
「…それ、無事だったのか」
「無事?二人で爆笑したんだって」
「………」
「いいじゃん!幼なじみなんだし!私とハルトの仲じゃん!」
こいつはAVというものを何か勘違いしているんじゃないのか?
きっと友人たちに相当そのネタでからかわれたのだろう。いくみはすぐムキになるから、からかい甲斐があるのだ。今のこの状態のように。
しかし『いいじゃん』なんて言われても、俺にはひとつもよくはない。
問題だらけだ。
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