▼ 俺とあの子とアダルトビデオ
「ねーハルト、えーぶい貸してよっ!!!」
幼なじみのいくみが放ったとんでもない一言に、俺は目玉が飛び出んばかりに驚いた。
「はああっ!!??」
普段は『クール』で通している俺の、めずらしい叫び声に、クラスメイトが数人振り返る。
しかし向かい合っているのがいくみだとわかると、皆納得したように視線を戻した。
「おい馬鹿!何言ってんだお前!正気か!」
俺は動揺しながら、声を落としていくみに詰め寄った。
女の子の――それも色気なんてまるでないこいつの口から放たれた『AV』という単語は、なんだかまるで別物のようで、だからこそよくわからない破壊力がある。
こいつ意味わかって言ってるんだろうな?
「正気に決まってるでしょ!ミキとナナにえーぶいも見たことないって馬鹿にされたんだもん!悔しいんだもん!!!」
「知るか!そんなんあいつらがおかしいんだろ」
地団駄を踏みながら叫ぶいくみに、俺も叫び返す。
全く、何がどうなってそんな話題になったんだ、あいつらは。
「すっごい子供扱いされたんだから!ハルトとばっか呑気に遊んでるからいくみはいろいろ遅れてるんだって」
不満げにいくみが発した言葉に、俺は眉をひそめた。
それは聞き捨てならない。
こいつが、部活と買い食いとはまっている漫画の続きにしか興味がないのは、断じて俺のせいじゃない。
隣のクラスの奴から告白された時『そういうのよくわかんないから』とあっさり断ったらしいのも、俺とは何の関係もないことだ。
俺には何人か彼女がいたこともあるわけだし。――どれもすぐ別れたけど。
だいたい、れっきとした男である俺を捕まえてその発言は、どう考えても男扱いされていないということで、しゃくにさわる。
prev / next
(2/7)