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わずかに見慣れてきた街を歩きながら、俺はこれまでの夢を反芻した。
エプロン姿で俺を迎えてくれた、新妻・日夏。
近い将来、あれが現実になるだろうか。
「早瀬!」
ひざまくらをして、キスまでしてくれるところだった、いつになく素直な日夏。
あれは絶対にありえないな。
「早瀬ー!」
国王の側室は、絶対だめだ。
あんなのは夢でも許しがたい。
「早瀬ってば!」
まあ、王子と姫で『愛してる』もいろんな意味でありえな……
「早瀬っ!!!!!」
ああ、なんだかさっきから幻聴まで聞こえ始めたみたいだ。
俺、病気なのかなあ。
「早瀬!!!って言ってるでしょーーー!!!!!」
「うわあああっ!」
突如、鼓膜に直に響いた大声に、俺はとび上がった。
振り返ると―――
「えっ!?日夏!?」
そこに立っていたのは、頬をふくらませた日夏だった。
「何ぼーっとしてるのっ?何回も呼んだのに!」
何で日夏が、こんなところに。
ありえない。――ということはつまりこれはまた、
「ゆ、夢…?」
すると、日夏が背伸びをした。
そして俺の頬をきゅっとつねる。
「い、いてっっ!!!」
「夢じゃないでしょ?」
いたずらっぽく笑う日夏は、まぎれもなく本物の日夏だった。
「今日休みだから、来てみたの。びっくりするかなあって」
「びっくりしたよ!!!」
それに、会いたかったから、すごく嬉しい。だけど何だか照れくさくて、言えなかった。
「……一人で、来てくれたの?」
「ううん?クロと」
一瞬にして心に北風が吹く。
クロいるのか。やっぱり。
「でも早瀬に会いたくないからってどっか行っちゃったわ」
「そうか…はは……」
まあ、日夏を知らない街で一人にするのも心配だし、クロがいてよかったんだろう。(今はいないし)
「ちょうど早瀬が休憩時間でよかった。はい、これ。あめ。疲れたら食べて?」
袋入りの大量のキャンディーを、日夏はこちらに差し出した。
こんなに食べられない、と思うくらいのお徳用だ。日夏は見た目に似合わず豪快なところがある。特に食べ物関係。
思わず頬が緩んでしまい、俺は少し、調子に乗った。
「ねえ日夏、会えない間、俺の夢、見たりした?」
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