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「おいこら!止まれ!」
「取り押さえろ!」
「侵入者だ!止まれ!!!」
門を突破しようとすると、何人もの警備隊員たちがこちらへ押し寄せてきた。
俺を取り囲み、剣を向け、叫んでいる。
ああ、うるさい。
それに、
「邪魔だ、どけ」
低く呟くと、突風が吹き荒れ、警備隊員たちは四方にふっ飛んだ。
「うわあああっ!」
「やばい、危険だ!誰か警備隊長に……凍瀧様にもお知らせしろ!」
「待て…止まれ……っ!」
背後に聞こえる声を無視して、俺は王宮に駆け込んだ。
「日夏…日夏ーーーっ!!!」
ひたすら名前を呼びながら、部屋の扉を手当たり次第に開けていく。
途中、取り押さえようと肩や腕に掴みかかってきた警備隊員を何人もはねのけた。
一番奥の、狭そうな部屋の扉を開ける。
すると。
「……っ!早瀬っ!?」
明かりも点いていない真っ暗な部屋の隅に、日夏が座り込んでいた。
目が赤い。
「………」
俺はしばらく扉の前で立ち尽くした。
「なんで、ここに……?」
ぼろぼろと、日夏の瞳から涙が零れる。
おぼつかない足どりで日夏のそばへ歩み寄り、俺は彼女を強く抱きしめた。
「………日夏を、迎えに来たんだ」
「だめっ…!そんなことしたら早瀬殺されちゃう…!」
涙声で首を振る日夏の頬に触れる。
「日夏が他の男のものになるくらいなら、殺された方がよっぽどましだ」
「わたしは……早瀬を守りたくて、ここに来たのに……」
「日夏を取られて、俺がおとなしくしてると思った?こうなるって、わかってただろ?」
「……だけど、」
「日夏、言って。ここから連れ出してほしいって。俺に掠ってほしいって。そしたら俺は、絶対に日夏をここから連れ出してみせるから」
日夏の瞳が揺れる。
わかってる。連れ出しただけじゃ、何にもならないことは。
これからずっと、二人で逃げ続けなくちゃいけない。
それでも俺は、日夏をこんなところには、死んでも置いておけないんだ。
日夏はぐっと涙をぬぐうと、俺の目をまっすぐに見た。
「早瀬、わたしをここから、連れ出して。その代わり、わたしも絶対に早瀬をここから無事に連れ出してみせる」
ああ、なんて日夏らしいんだろう。
こんなときなのに、俺は嬉しくてしかたがなかった。
そういう日夏だから、俺の命をかけたって、守り抜きたいと思うんだ。
「わかった。約束だ。俺は日夏をここから連れ出す。日夏は俺を、連れ出してくれ」
「うん!」
強く頷く日夏を、もう一度抱きしめる。
そのとき。
「そこまでだ、小僧。側室は返してもらおう」
初めて聞く、威厳に満ちた声が、俺の希望を一瞬にして打ち砕いた。
ここまでか。
いや、だめだ。
俺は必ず、約束を守る。
日夏を、取り戻すんだ。
俺は静かに立ち上がり、大きく息を吸ってから、目の前に立つ国王を睨みつけ
―――たつもりだったけれど、それはただの天井だった。つまり、目が覚めた。
***
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