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「ねえ早瀬、今日も一日疲れたでしょ?ひざまくらしてあげる」
満月が日夏の笑顔を照らしている。
俺と日夏は、小高い丘に腰を下ろし、夜空を眺めていたのだった。
「えっ…!ひざまくら……」
日夏の思いがけない発言に、俺は動揺する。
ふだんの日夏なら「ひざまくらして」と言っても「えっ、何で!やだ!」と思いきり首を振るはずなのに。――そもそも「ひざまくらして」なんてとても言えないけど。
しかし、今日の日夏はまるで別人だった。
「いや?」
悲しそうに首を傾げる。
「まままままさかそんなわけない!!!!………ええとその、いいの……?」
「当たり前じゃない。はいっ」
日夏は今度は笑って自分の膝をぽんぽんとたたいた。
「じゃ、じゃあ……」
俺はおそるおそる日夏のひざに頭をのせる。まずい、心臓がすごいことに。
「ふふっ、早瀬、緊張してるの?」
日夏は小さく笑い、ふわりと俺の髪をなでた。
「………っ!」
指の感触に、ぞくりとする。
どうすればいいかわからずに固まったままでいると、ふいに日夏が呟いた。
「ね、早瀬?わたしね、早瀬がだいすきよ」
「えっ、ええええっ!!??」
俺は思わず跳ね起きる。
「ひ、日夏……?熱でもあるんじゃないのか……?」
おでこに触れようとした俺の右手を、日夏の両手がやさしく包み込んだ。
「そんなわけないじゃない」
「……っ、で、でもいつもの日夏なら、絶対こんなこと……」
「たまには素直になってみようかなって。いつも早瀬にだけ素直になれないから…」
はにかむような笑顔に、俺の鼓動はますます加速した。
が。
「早瀬、お願いがあるの」
「え?何?」
「目、つぶって?」
俺の心臓は、間違いなく一瞬止まった。
「ひっ、日夏っっ!!??」
声が上擦っているのがわかる。
だってこんなの、ありえない。
「早瀬、わたしのこと好き?」
「すっ…好きだよ!!!」
「じゃあ目、つぶって?」
桜色に頬を染めて、日夏がもう一度ねだる。
そんなの、もう俺は、従うしかないじゃないか。
目を閉じると、心臓の音がさっきより大きく聞こえ始めた。
日夏が、俺の服の袖をきゅっと掴む。
そして、目の前に、彼女の気配。
日夏のいい香りが、ますます俺を煽る。
早く。いや、だめだ。欲望に正直な自分と、弱気な自分が、交互に心を支配する。
日夏の気配が、限界ぎりぎりまで近づいた。
やっぱり、早く
―――と思ったら、目が覚めていた。
***
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