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「………夢か」
俺は、爽やかな朝に似合わない、重苦しいため息をついた。
窓の外に視線を向ければ、見慣れぬ風景。
「日夏に会いたい……」
俺は夢の余韻を探すように、空中に手をのばした。
先日、幼なじみである日夏にやっと気持ちを打ち明けて、晴れて恋人同士になった。
今まで生きてきて一番幸せな瞬間だったと、断言できる。
だけど、これからは『瞬間』なんかじゃなくて、幸せが絶え間無く続いていく日々が待っているに違いない。
――と思っていたのに。
はかったようなタイミングで、俺は10日間の出張を言い渡されてしまったのだ。
王都から遠く離れたこの街で、俺は日夏と離れて10日も過ごさなければいけない。
一秒でも長く一緒にいたいくらいなのに、こんな仕打ちはつらすぎる。
(だからきっと、あんな夢を見たんだな)
エプロン姿の日夏を思い出し、またため息をつく。
夢でさえも日夏に何もできないなんて、俺はどれだけヘタレなんだろうか。
とはいえ、夢の中で手を出すというのも、日夏を汚してしまうみたいで後ろめたい。
――つまり、なんにしたって、本物の日夏に会いたい。
「こんなんで俺、10日間もつのかなあ…」
もう一度だけ大きくため息をつくと、俺は着替えるために立ち上がった。
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