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「殿下!こいつニヤニヤしながらお妃様にしつこく話しかけてました!」
「しかもお妃様のお名前を連呼してやがりました!」
「さらにはお妃様のお手に触れてました!」
「なっ、お前ら……!」
思い思いに休憩していたふりをして、みんなちゃっかり俺たちの様子を窺っていたらしい。
それにしたって、語弊がありすぎる。
「ち、違います!オルヴァさんには私が触ったんです!」
リン様が慌ててカズマ殿下に駆け寄るけれど、それは逆効果だ。
「ずいぶん仲良くなったようだな」
そう言うカズマ殿下の笑顔が怖すぎる。
「……っ、そうです!カズマ様のことが大好きな方と仲良くなったらだめなんですかっ!?」
リン様は一瞬ひるんだけれど、すぐに頬をふくらませて叫んだ。さすがだ。
「………」
カズマ殿下は不満そうな顔をしたが、何も言えないらしい。
「やっぱりリン様が一番強いなあ」
気が緩んで思わず俺がそう呟くと、カズマ殿下がゆっくり振り返った。
「……そうか。ならもっと鍛えないとな。付き合ってもらおう」
「ひいっ!か、勘弁…、」
「まずは俺がこれを食っている間に素振り千回だ」
俺の悲鳴を遮り、カズマ殿下はゼリーを手に取った。
「うわあああ〜もう!先輩だって一緒にいたのに!」
叫びながら剣を振り下ろす。
先輩は素知らぬ顔で稽古に戻っていた。ずるい。
「あの、じゃあ私はこれで…」
稽古が再開され、リン様が遠慮がちに挨拶する。
「あっ!ありがとうございました!今日は楽しかったです!」
俺はひたすら素振りをしながら、リン様に感謝を伝えた。
リン様は小さく笑うと、王宮の方へ歩いていく。
すると、
「リン」
カズマ殿下が、リン様のお名前を呼んだ。
思わずカズマ殿下の方を見る。
リン様も立ち止まり、振り返った。
「楽しかったか?」
リン様は、満面の笑みを浮かべた。
「はいっ!」
カズマ殿下がリン様のおかげで強くなれているみたいに、リン様もカズマ殿下がいるからこんなに幸せそうなのかな、と俺は思った。
「あの、殿下……もしかして、わざと、名前呼びました?」
「お前はよっぽどしごかれたいらしいな」
「えっ、待っ……勘弁してくださいってばー!!!」
その後は、リン様の記憶も吹っ飛んでしまいそうなくらいに厳しい稽古が待っていた。
end
special thanks:れいたさん
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