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「私は、何度か国境の小競り合いを殿下と共に戦いました。殿下は確かに当時から、部下の命を重んじる方でした。口には出されませんでしたが。
しかしお妃様が来られて、自分の命も大切にするようになられた。
もちろん、今まで大切にしていなかったわけではないでしょう。ただ、『国民の盾』に、お一人でなろうとしておいででした。
それが今は、私たちに『共に盾になってくれ』と言ってくださる。自分も生きていたいから、と。
それは弱さに見えるかもしれませんが、本当はとても強くないと言えないことです。共に、と言った以上『生きていたい』には私たちも含まれるんですから。背負うものが増えた。
だけどそれさえ強さに変えてしまわれるのがカズマ殿下です。そしてそんな風にカズマ殿下を変えたのが、お妃様です。
だから私たちは、お妃様を尊敬申し上げていますし、深く感謝しています」
先輩は、リン様に向かって深く頭を下げた。
「私こそ…ありがとうございます。こんな方たちに囲まれて、カズマ様は幸せ者ですね」
リン様が、少しだけ涙を浮かべてそう言った。
やっぱり先輩には全然敵わない。
少しだけ悔しくなるけれど、リン様の喜ぶ顔が見られたから、悔しさよりも嬉しさで胸がいっぱいになった。
リン様は指で涙をぬぐうと、俺たちがまだ手をつけていないゼリーに視線を向けた。
「あっ、冷たいうちに召し上がってください!私にはこんなものでしか返せないですけど…」
「いえ、十分です。いただきます」
「いただきます!」
俺も先輩に倣ってゼリーを口に運ぶ。
「うまい!うまいです、ありがとうございますリン様!」
「よかった。また作ってきますね、オルヴァさん」
「わあっ、楽しみです!」
リン様が俺の名前を呼んで、にこりと笑ってくれた瞬間、背後から長い影がさした。
カチャ、という不穏な音がして、頭上から低い声が降ってくる。
「いつまで休憩してるつもりだ」
ぎくりとして顔を上げると、眉間に思いきりしわを寄せた主が、剣に手をかけてこちらを見下ろしていた。
「か…カズマ殿下……これは、その、」
俺が口ごもると、ばらばらに休憩していたはずの仲間たちが、またわらわらと集まってきた。
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