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しかしリン様は、俺の質問にきょとんとして、首を振った。
「えっ、そんなことないですよ?」
「ええっ!いつですか?聞いたことないですよ!例えば?」
俺は思わず身を乗り出す。
「た、例えばって……えっと、そ、それは」
リン様は、少し記憶を辿るような表情を見せた後、急に顔を真っ赤にしてしまった。
「??」
すると、先輩が呆れたように俺の頭を軽く叩いた。
「馬鹿、これ以上詳しく聞いたらそれこそカズマ殿下に殺されるぞ」
「え……あ、ああ……」
先輩の言葉とリン様の表情から、つまり二人きりのときなんだな、とやっと気付く。
そうか、考えてみれば当たり前なのに、ナンセンスなことを聞いてしまった。
リン様が、二人の時に『殿下』と呼ばないのと同じで、カズマ殿下も当然そうなのだ。
自ら語るに落ちる形になったリン様は、頬を押さえて俯いてしまった。
可愛いな、と思わずじっと見てしまう。
顔に出る、と言われたばかりなのにまずいかな、と思うけれど、たぶん隣に座る先輩だって、同じことを思っているはずだ。
リン様は俯いていて気付いていないし、カズマ殿下は不在だし、少しくらいはいいだろう。
……だけど、カズマ殿下もきっとたまらないだろうな、と想像する。
例えば、こんな真っ赤な顔で、上目遣いなんかで名前を呼ばれたりしたら。
想像もできないけど『可愛い』とか言ってしまったり、するんだろうか。
そこまで考えて、さすがにいろんな意味で不敬罪だ、と強制的に思考を中断させる。
「でも剣を突き付けるなんて……あの、ほんとにすみません」
真っ赤な顔で上目遣いで、リン様はすまなそうに言った。
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