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「いつもいつもありがとうございます!」
「いえ、お口に合えば嬉しいです」
「お妃様の差し入れはいつもめちゃくちゃ美味しいです!」
「ほんとですか、ありがとうございます」
「今日もお綺麗ですね!」
「えっ?ええっ??」
みんな、リン様にこちらを向いてもらおうと、身を乗り出して話しかけている。
リン様は一人一人に答えながらも、慣れない状況に少々戸惑っているようだった。
いつも差し入れを持ってきてくれるときには、カズマ殿下が目を光らせているから、気軽にリン様には近寄れない。
鬼の居ぬ間に、といったところだろう。
もちろん俺もそう思っている一人だった。
「おいお前ら!お妃様がお困りだ。さっさと自分の分をいただいて散れ!」
さすがに見かねた先輩兵士が一喝し、人だかりがさっと解けた。
「ケチ!」「人でなし!」などと言いながら、全員おとなしく従う。
カズマ殿下もカザミ将軍も不在の時には彼が兵士たちをまとめているのだった。
今度は籠を持った俺を取り囲み、みんな自分の分を取ると、リン様にお礼を言って元の場所へ戻っていく。
籠の中には、先輩の分と俺の分、そしてカズマ殿下の分のゼリーが残った。
「オルヴァ、後でお前が殿下にお渡ししろ。もうすぐ戻られるだろう」
先輩が、自分の分を取って俺に言う。
「はい」
先輩もなんだかんだで頬が緩んでるな、と思いながら、俺は頷いた。
すると、ふいにリン様が「あ、」と呟いた。
「あなたが、オルヴァさん、ですか?」
「えっ!なんで俺の名前を?」
リン様の口から自分の名前が出てくるなんて思わなかったから、俺は盛大に驚いた。
一介の…それもまだ半人前の兵士の名前を、どうして王子妃殿下が知っているなんて思うだろう。
するとリン様は、何かを思い出すように笑った。
「カズマ…殿下が以前おっしゃってました。『あいつは意外と考えてることが顔に出る』って」
「ええっ!?」
さらに予想外の言葉が来て、俺は思わず顔を押さえた。
自分では、まあ割とポーカーフェイスというか、他の奴らほどわかりやすくはないと思っていたのに……カズマ殿下がそう言うなら、そうなんだろうか。
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