短編そのた | ナノ


▼ 

「カザミ隊長」

私は顔を上げ、直立不動の相手の目を見た。

「はい、陛下」

カザミ隊長はすぐに返事をする。

「私がもしも…あのひとのように死んだら、カズマはひとりになる。私は、あのひとを失っても、生き方を失ったわけじゃない。……だけど私が死ねば、カズマは『王となる者』としての生き方まで、失ってしまうかもしれない」

「……」

「身をもって教える者がいなくなることは、カズマの王としての将来に影を落とす。カズマなら、ひとりでも立派に立てるかもしれない。心配することはないのかもしれないけれど、でも、」

私はカザミ隊長を睨むようにじっと見つめた。

「私は今、まだここにいる。カズマのそばに。だから、私は『国王』としての全てを、カズマに叩き込む。それを武器にカズマがひとりでも生きていけるように。――今日からはそれが、私のカズマへの愛情だ」


いつか後悔する日が来るかもしれない。

それでも、その後悔さえも引き受ける。

そして私も、彼女を思って泣くことはもうしない。――彼女と再び会う日まで、涙を流さないと誓う。



「ならば私も、持てる力の全てで、陛下のお手伝いを致しましょう。あの日から私の忠誠は全て、陛下のものでした。今日からは、それをカズマ殿下にも捧げます」

カザミ隊長は左胸に手を当て、深く頭を下げた。


「カザミ隊長……」

思いがけない一言に、私は一瞬、返す言葉を失う。


「――ありがとう」

私がなんとかそれだけを伝えると、カザミ隊長は穏やかに微笑んだ。



これからカズマには、辛い思いをさせてしまうかもしれない。
彼が唇を噛んで涙をこらえなければならない日も、あるだろう。

それでも、私は決意を翻すことは絶対にない。


――いつか、カズマが胸の奥で凍らせてしまった涙を、あたたかく溶かしてくれるような誰かに、出逢ってくれたらいいと思う。


あの日の庭に満ちていたひだまりを、運んできてくれるような誰かに。



祈りに似た思いを胸にしまい、私は政務に戻るべく、ペンを手に取った。



************




prev / next
(7/9)

bookmark/back/top




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -