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「カザミ隊長」
私は顔を上げ、直立不動の相手の目を見た。
「はい、陛下」
カザミ隊長はすぐに返事をする。
「私がもしも…あのひとのように死んだら、カズマはひとりになる。私は、あのひとを失っても、生き方を失ったわけじゃない。……だけど私が死ねば、カズマは『王となる者』としての生き方まで、失ってしまうかもしれない」
「……」
「身をもって教える者がいなくなることは、カズマの王としての将来に影を落とす。カズマなら、ひとりでも立派に立てるかもしれない。心配することはないのかもしれないけれど、でも、」
私はカザミ隊長を睨むようにじっと見つめた。
「私は今、まだここにいる。カズマのそばに。だから、私は『国王』としての全てを、カズマに叩き込む。それを武器にカズマがひとりでも生きていけるように。――今日からはそれが、私のカズマへの愛情だ」
いつか後悔する日が来るかもしれない。
それでも、その後悔さえも引き受ける。
そして私も、彼女を思って泣くことはもうしない。――彼女と再び会う日まで、涙を流さないと誓う。
「ならば私も、持てる力の全てで、陛下のお手伝いを致しましょう。あの日から私の忠誠は全て、陛下のものでした。今日からは、それをカズマ殿下にも捧げます」
カザミ隊長は左胸に手を当て、深く頭を下げた。
「カザミ隊長……」
思いがけない一言に、私は一瞬、返す言葉を失う。
「――ありがとう」
私がなんとかそれだけを伝えると、カザミ隊長は穏やかに微笑んだ。
これからカズマには、辛い思いをさせてしまうかもしれない。
彼が唇を噛んで涙をこらえなければならない日も、あるだろう。
それでも、私は決意を翻すことは絶対にない。
――いつか、カズマが胸の奥で凍らせてしまった涙を、あたたかく溶かしてくれるような誰かに、出逢ってくれたらいいと思う。
あの日の庭に満ちていたひだまりを、運んできてくれるような誰かに。
祈りに似た思いを胸にしまい、私は政務に戻るべく、ペンを手に取った。
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(7/9)