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彼女の死は、突然だった。
何かがおかしいと思った時には既に遅く、一瞬ともいえる早さで彼女は私たちの元から、いなくなった。
王宮が急に、静かになった。
色が、なくなった。
カズマは泣かなかった。
少なくとも、私たちの――誰かの前では一度も泣かなかった。
ただ、それは私も同じだった。
自室で一人になってから、やっと、思いきり泣くことができた。
だからカズマも、同じだったのかもしれないし、一人でも泣かなかったのかもしれない。それはわからない。
一度だけ、人前で『悲しみ』を言葉にしたことがある。
執務室で、カザミ隊長と話していたとき、ふいに彼に「身体は、大丈夫ですか?」と尋ねられた。
そのなにげない口調に、思わず心のタガが緩むのを感じた。
「身体は、平気だよ。……ただ、ずっと、心臓が痛い気がするだけかなあ」
「………」
カザミ隊長は何も言わず表情も変えなかった。
「でもね、」
カザミ隊長がちらりとこちらを窺う気配を感じたが、私は書類に視線を落とした。
「こんな思いをするのが、あのひとじゃなくてよかった――本当に、そう思うよ」
書類は視界に入らず、彼女の髪や瞳が、まぶたの裏に浮かんでくる。
彼女がこれを抱えて生きていくことになっていたら――ぞっとするくらいだ。
そこまで考えて、私はふいに、カズマの瞳を思い出した。
彼女と同じ黒い――彼女が『あなたにそっくり』と言った瞳。
カズマにも、こんな思いをさせているのか。
そして――
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