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「このはなです。なんというはなですか?」
カズマが指差したのは、見たことのない花だった。確かに、控えめな咲き方だが、美しくてかわいらしい。
「知らないお花ね。もしかして、外国から種が飛んできたのかしら」
「?」
カズマはよく意味がわからないらしく、彼女の言葉に首を傾げる。
そんなカズマを見て、彼女は優しく微笑んだ。
「摘んで持って行こうとは、思わなかったのね」
「つんだら、かれてしまいます。わたしたちがみにいけば、いつでもみられます」
カズマは無表情でそう答えた。
「……優しい子ね」
彼女が微笑みながらカズマの頭を撫でる。
少しくすぐったそうな顔をしていたカズマは、やがて満面の笑顔を見せた。
そのまま二人がこちらを振り返る。
心にひだまりが広がっていくような感覚に、私も、笑った。
―――あの時の二人の笑顔を、私はずっと、忘れない。
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