▼
王子殿下は王妃様にそっくりでいらっしゃる――誰もが口を揃えて言っていた言葉だった。
しかし彼女は、おもしろがるような表情で首を振った。
「あなたに似てるわ、カズマは」
「どこが?目の色も髪の色も、顔立ちだってきみにそっくりだよ」
私は苦笑した。
二人はまさにうりふたつ、と言っていい容貌だった。
どれほど美しい青年に成長するだろうかと、女官たちがよく騒いでいる。
「目つきが、そっくり」
彼女はくすくすと笑った。
「目つき…?自慢じゃないけど俺はあんな切れ長じゃないよ。どんぐりだって、よく父上に笑われてた」
「あなたが、容赦のない決定を下すときの目付きが、あの子にそっくりなの」
私は唖然とした。
「そ…それって、よくないことじゃないか?きみは暗に、息子の目つきが悪いって言ってる?」
「まさか!それはまあ、あの子はあまり…表情豊かな方ではないけれど。――あなたが冷酷な判断をするとき、本当は誰よりも、優しさに満ちていて…だから心をいためてる。あの子は、そんなあなたに、そっくりなのよ。とびきり優しい子」
彼女の綺麗な瞳に、慈しみが宿っていた。
私と――息子への。
なぜか泣きたい気持ちになる。
何も、言うことができなかった。
その時、ノックの音がして、抑え気味の子供の声が聞こえてきた。
「ははうえ、おいそがしいですか」
彼女は立ち上がって扉を開く。
そこに立っていた息子――カズマに微笑みかけながら、
「いいえ、今お父様とお話をしていたのよ。どうしたの、カズマ」
カズマは部屋の奥に座る私にも気付き、頭を下げる。
「ははうえ。…ちちうえも、にわにきれいなはながさいていたのです」
「まあ、そうなの。どんなお花?」
「きれいなはなです。おみせしたくて、まいりました」
二人のやりとりに頬が緩む。
「カズマ、花持ってないじゃない。どこにあるの?」
私も二人に近づき、腰を低くして尋ねた。
「にわに、あります」
そう言うと、カズマは彼女の服を軽く引っ張った。
「ああ…」
私は納得する。
そして二人で、カズマに手を引かれ、庭へ向かった。
prev / next
(4/9)