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「俺はどうすればいいんだろうね…」
らしくもないため息をつきながら、思わずそうこぼすと、彼女は笑った。
「生まれてくるこの子に、何を与えてあげたいかを考えたら…答えなんて簡単だわ?」
彼女は私の手をとり、お腹に触れさせる。
「私はこの子が国をまとめる時、将軍たちのような…血走った目をしていてほしくない。もちろん義務は果たさなきゃいけないけれど、多少は平和ボケしていてほしいと思うわ」
平和ボケって…と苦笑する私の頬に、彼女のしなやかな指が触れた。
「それに、同じ命を賭けるなら――相手を力ずくでねじ伏せるよりも、相手をぎゃふんと言わせる方が、あなたらしいでしょ?」
いたずらっぽく揺れる黒い瞳に、はからずも誘惑されそうになりながら、私は「……なるほど」と頷く。
彼女は私よりも、私の見るべき方向を知っている、コンパスのようだった。
翌日の会議で私は、戦争を終結させるために力を貸してほしいと――自分も全力を尽くすと、臣下たちに伝えた。
「陛下を守りきれなかった我々がのうのうと生きていくわけにはいきません」、将軍たち武官は口を揃えた。
やはり、その思いが彼らを捨て鉢にさせていたのだと改めて気付く。
「その命を、私と――その子供に預けるわけにはいかないかな?ここで死んだら、お前たちが大好きだったあの人の、残した未来が見られない。なんの情報も持たずにあの人のところへいったって『無能が』って追い返されちゃうんじゃないかな?」
彼らの痛みはよくわかっていた。
だからこそ、わざと軽い口調で言ってのける。
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