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「越える、ってどういういみ?」
私は、男の人に聞き返した。
『ちがう』ひとなのかは、何と尋ねればいいのかわからなくて、聞かなかった。
「ええとね、この森には、こっちとあっちの『継ぎ目』みたいなのがあるんだ。だからたまに、気付かずに越えて来ちゃう人がいるんだよ。すごく小さい『継ぎ目』だからめったにないけどね」
「つぎめ…」
「だから、ここは今、きみの住んでる場所とは違うんだ」
ああ、やっぱり、と思った。
理由はないけれど、なんとなく、においとか空気とかが、違う。
このひとも。
「あの、どうやって帰るか、教えてもらえますか?」
私が問うと、彼は難しい顔をした。
「うーん、きみはまだ十五には…なってないよね?だったら、二週間経てばその切り株のとこに『継ぎ目』の一部が現れるよ。でも、それまでは帰れない」
「そうですか」
私は少し考えた。
帰れないならしかたない。
だけど、お母さんになんて説明しよう。
すると、彼がすとんと木から飛び降りた。
まるで体重がないみたいに、地面にふわりと着地する。
そして、私の前にしゃがみこみ、
「泣かないんだね」
と、首を傾げた。
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