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「このあとカラオケでも行こうか?」
男の人がひとり、やけに近い距離で私に話しかける。
幹事役の友人が『ノリのいい奴だからオススメ』と言っていた人だけど、なんにも思わない。
それどころか、あまり話したくない。
「俺、バラードとかけっこう泣かせるよ?」
そんなトーンでバラードなんて言わないで。
私は、ちぐはぐなイメージに苛立つ。
崇さんが「バラード」という言葉を口にしたなら、切ないメロディーまで聞こえてきそうなくらい、素敵なトーンで私の耳に届くのに。
この人の声には『自分』しかない。
欲望が剥き出しの、ざらざらした声。
ノリがいい人……なんて言っても、声があまりにも欲望に正直すぎて、あいづちを打つ気にもなれない。
崇さんの声は、感情を全部、その声の響きが綺麗に包んでしまっているみたいで、すごく心地いい。
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