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先生になりたいかもしれない。


単純すぎるかもしれないけど、『先生』としての先生を、尊敬しているから。

あんな風になりたいから。



でも、『教え導く』仕事なんて、そんなことをやりとげる自信は正直、ない。



「職業上は『教師』なんていう名前がついてるけどな、俺はただお前らより先に生まれたから『先生』なだけだぞ?」

日の暮れかけた教室で、先生が言った。


「先に生まれて、ちょっとでも長く生きてるからこそわかることを教えるだけだ。だから俺たちが教えられることなんて、ほんとはほんの少ししかないんだよ」


わたしは、志望校調査のプリントから顔を上げた。

前の席の椅子に横向きで座っている先生は、相変わらず適当な口調で続ける。


「お前らを『導く』なんてだいそれたことをする気はないんだ。俺だって、ただの人間だからな。
生徒の好きや嫌いもあれば、わがままなことを考えるときもネガティブになるときもあるし」

先生の『ネガティブ』なんて想像もつかない。

わたしが変な顔をしていると、先生は笑った。


「まあ仕事としての『教師』を日々それなりにこなしながら、あとはお前らと一緒で日々成長ってやつだ。キンパチレベルなら『導く』とかそんなのもできるかもだけどな」



それでも先生は、『それなり』なんて言いながらきっと妥協はしないし、それでいて楽しそうだ。

ほんとはたくさん苦労もしてるだろうに。



それはきっと強いから。
それと、好きだから。

前に言っていたこと。
ひとつでもあればいいという、好き。

好きだからこそ強いのかもしれない。



『先生』としての先生は尊敬している。

だけど、そうじゃない先生も、もっと知りたい。


どっちもなんて、わがままだろうか。



「……じゃあたまには、ひととしての先生と、話してみてもいいの?」

視線をプリントに戻したから、先生がどんな顔をしたかはわからなかったけれど、わたしは構わず言った。


「わたしのこと、好きか嫌いかで言ったら、どっち?」


すると、くくっ、と吹き出す声が聞こえて、わたしは思わず顔を上げた。

「やっぱお前、ガキだなあ」

「なっ…!」

失礼な台詞に顔をしかめる。

それに、少し傷ついてしまいそうになる。


けれど、先生は次の瞬間、やさしく笑った。

「嫌いな生徒とこんな時間にこんなとこにはいねえよ」


今のは本音、だと思う。


だけど、『ひととして』答えてくれたのかな?


そこまで聞くと、本当に傷ついてしまう気がしたから、わたしは今の言葉を大切にしまっておくことにした。

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