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「進路希望かあ…」
放課後の教室。わたしは配られたプリントを見てため息をついた。
「まだ二年だし、難しく考えなくてもいいんだぞ?」
先生が、そんなわたしをのぞきこむ。
「うん、でも……ちゃんと考えとかなきゃ、後で困るから」
親からは『お金はなんとか貯めてるから、少しでも行きたいなら大学行きなさい』と言われている。
大学には憧れるし、行きたい。
だけど将来の自分の役に立つような大学に行かなきゃ、もったいない気がする。
それには、将来の『夢』 が決まってないといけなくて……それが見つからなくて、悩んでいる。
以前そんな話をしたことがあるせいか、先生はため息の意味を察したみたいだった。
「いま無理に探さなくたって仕事なんて勝手に向こうからやってくるから大丈夫だって」
教師らしくないアドバイスをよこす。
「だけど先生は、先生になりたくてなったから、こんなに楽しそうなんでしょ?」
いつも楽しそうな先生を好きになったから、わたしだってそんな風になりたかった。
だけど。
「いや?俺はとりあえずで受けた試験に通ったから教師になった」
「うそっ」
意外すぎる話だった。
『天職』ってかんじがするのに。
「恵まれてたからこそ言える台詞だけどな。仕事なんてだいたいにおいて辛いことしかないもんだ。そこで一個でも『好き』だと思える何かを見つけられたら、まあ、それなりに続くもんだ」
「一個でいいの?」
「俺はそう思ってるけどな」
そう考えたら、難しく考えなくてもこれからやっていけるような……根拠はないけどそんな気持ちになる。
わたしは一瞬黙ってから、尋ねた。
「先生が、先生を続けられてる『好き』は、何なの?」
先生は笑った。
「そりゃあ、お前らだろ」
「……そっか」
すごく嬉しくて―――ちょっとだけ、ちくりとする。
その中でわたしのことは、どれくらい好きなのかな。
そんな質問は、先生の『好き』を汚してしまう気がして、胸の奥に隠した。
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