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「調子に乗るなよ、ガキが!こっちの方が立場は上なんだよ、わかってんのか!?」
この場所にはあまりに不似合いな怒号が響き渡り、オフィスはしんと静まり返った。
部長と課長が『うんざり』といった表情で腰を浮かす。
「……っ」
それより早く、私は駆け出していた。
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今日の甲斐くんの商談相手は、得意先の営業マンだった。
40代の口数が多い男性で、明るい人ではあるのだけれど、少しでも気に入らないことがあると嫌味を言い、たまに声を荒らげたり恫喝に近い言葉を投げ付けてくることもあった。
商談の内容上、またこちらがとても小さい会社ということもあり、これまで事を荒立てないよう下手に出ることが多かった。
彼の上司が同席していると大人しく、単身こちらへ来ることは少ないという理由もある。
また、宥めると比較的すぐに我に返るタイプだったから、そういう対応が得意な部長が出てきて丸くおさめていたのだった。
年配の女性社員がこれまでこの会社を担当していたのだけれど、そういった少々ややこしい相手、ということで男性社員に担当を変えることになり、甲斐くんが指名された。若手の甲斐くんに経験を積ませる狙いもあったのだろう。
『甲斐くんならあんなオッサンにびびったりしないだろうし、そつがないから怒らすことも少ないでしょ』とは係長の言だ。
『どうでもいい人間に何を言われても特に気になりませんから、受け流します』
甲斐くん本人もけろりとしていた。
『こちらは仕事をするだけですから』
とはいえ。
私も一度いわれのないことで説教をされたことがあったから少し心配で、でも仕事のできる甲斐くんに私が同席するのも(一応上司とはいえ)憚られた。
だから、お茶出しを買って出たのだけれどーー商談を始める前から、相手は明らかに不機嫌だった。
『秋月さん、今回からえらく若い子に変わったんだね?うちとの仕事は軽く見られてるってことかな?』
『そんなことは……、優秀な若手社員ですから、どうかよろしくお願い致します』
『ふーん、まあいいや』
嫌な予感がして、商談スペースにさりげなく注意を払っていた。
衝立で仕切られているだけの商談スペースは私の席から近く、聞き耳をたてているとそれなりに内容は聞き取れる。
終始こちらを見下した様子はあるけれど甲斐くんは動じることも下手に出ることもなく、商談自体は順調に進んでいた。
ーーけれど、条件面での擦り合わせが、うまくいかなかった。こちらも譲れない線だったから、甲斐くんが退かないのは当然だった。もちろん、そんなことは他社相手にでもあることだ。
思い通りに事が進まないこと、甲斐くんの堂々とした態度への苛立ちが、爆発したのだろう。
『調子に乗るなよ、ガキが!こっちの方が立場は上なんだよ、わかってんのか!?』
口汚い罵りが、飛んだ。
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