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その日は朝から天気が悪かった。
暗くなる頃から雨風が酷くなって、窓を叩く音が集中を乱した。
さらに悪いことに、ときどき雷が鳴っている。
「秋月ちゃん、悪いけど甲斐くんが例の件の資料を集めてるから手伝ってくれる?書庫にいるんだけど一人じゃ大変だから」
「は、はい、係長……」
いつかも甲斐くんと二人になって――気まずい思いをした書庫で、再び二人きりだ。
あの頃よりは甲斐くんのことを怖くはないけれど、やっぱり少し緊張した。
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「主任、雷苦手ですか」
ずっと無言で資料を集めていた甲斐くんが、不意に話しかけてきた。
「え、と……な、なんで……?」
「さっきからゴロゴロ言うたびにびくついてるので」
「み、見てたの……?」
「視界に入りました」
私は情けなく肩を落とした。
「はい……苦手、です」
「なんでそこでまた敬語、」
「ご、ごめんなさい。年上として恥ずかしいというか……社会人としてだめ、というか……なので」
「主任は他人の目を気にしすぎるからいつも自信がないんじゃないですか。雷怖いとか、むしろ可愛い部類じゃないんですか」
甲斐くんは呆れ顔で言う。
「かわっ……!?」
いや、違う。甲斐くんは一般論を言っているだけだ。決して私自身が可愛いと言われたわけではないのに、動揺した自分が恥ずかしい。
「わ、私みたいなのが雷怖いのは、その……可愛くはならないから……」
怖いことや苦手なことが多すぎる私は、雷『も』怖いのだ。それは他人からすれば『やっぱりね』と溜め息をつかれる部類だと思う。
少しずつ、いろんなことを克服していきたいと思ってはいるけれど。
「まあそのへんの女が『雷怖い』とか言っても、『だから何だ』って感じですけど」
「え、と、……そう、だよね」
「主任は本当に怖いんでしょうから」
「う、うん、……?」
甲斐くんの言いたいことがよくわからず、私は首を傾げた。
その時。
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