拍手log | ナノ


▼ (1)

夜八時。
いつも先生が校舎を出る時間。


暖房なんてほとんど効かない職員室で仕事をして。

寒い校舎の戸締まり確認をして。

からだは冷えてるはずで。

先生はココアが大好きだから。


わたしは昇降口の前で、ほかほかのココアを持ってスタンバイしている。

『せんせ、はい、ごほうび』なんて澄ました顔であったかいココアを渡す計画。

かわいい教え子が自分を待っていて、好物を覚えていて、おまけに冷えた体があったまる。

先生だってちょっとはほだされてくれるかもしれない。


どきどきしながら先生を待つ。


なのに、先生は出て来ない。
いつも八時きっかりに出てくるのに、今日に限って何してるんだろう。


10分経った。

20分経った。


30分経った頃、手の中のココアには全く温度がなくなった。

悲しくなって、地面にしゃがみ込む。
コートを着ていれば寒くないくらいの気温なはずなのに、なんだか寒い。

わたし何やってるんだろう……


そう思った瞬間に、

「お前、何やってんだ?」

先生がわたしを怪訝な顔で見下ろしていた。


先生の顔を見たら、なぜだか目のまわりが熱くなって、視界がうるんだ。


「……ひえちゃった」


先生は、くしゃくしゃな顔になってるはずのわたしを見て、それから手の中のココアを見た。


わたしの手からココアの缶を抜き取ると、一口飲む。

「ん、ぬるい」

「……」


先生はわたしと目線を合わせるように、しゃがみこんだ。

「猫舌にはこんくらいがちょうどだ」

それからいたずらっぽく笑って、

「他の奴らには言うなよ?」



先生に好きになってもらう作戦だったのに、結局わたしの方が先生をもっと好きになってしまっただけだった。


先生は「明日からはさっさと帰れよ」と家まで送ってくれた。

わたしは先生の後ろ姿を見送りながら、

「先生、ずるい」

とつぶやいた。




prev / next
(1/1)

back/top




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -