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「ほんとに!?ほんとに秋月ちゃん、今まで誰とも付き合ったことないの!?」
「か、課長、声が大きいです……!」
今夜は会社の飲み会だ。
ビルの1階分で事足りる小さな会社だから、それほど大規模なものにはならず、比較的気は楽だが、やはりこういう賑やかな場ではどうしていいかわからない。
しかも、課長が私に好きなタイプを聞いてきたところから、私に恋愛経験がないことを白状させられてしまった。
「可愛いのにもったいないよ!さては人見知りのしすぎで告白とかも全部断ってたんだなー?」
「い、いえ、告白なんて、されたこともないですから……」
「うっそー!?あれか、陰ながら秋月ちゃんを想ってるような控え目なタイプにモテてたのか!」
「ま、まさか……」
課長は普段から割とお調子者だけれど、お酒が入るとますますハイテンションになる。
嫌、というほどでもないけれど、少し対処に困ってしまう。
「てことは、リードしてくれるやさしくてちょっと強引な彼氏募集中か!」
「ごっ……!?いえ、私はそういうのは、ほんとに、いいですから……」
課長の勝手な脚色に慌てる。
確かにリードしてもらえなければ右も左もわからないかもしれないが、強引なのは怖い。そもそも、こんなにも人見知りな私が誰かと付き合うだなんてできるわけがない。
しかし、課長は話題を変えるどころか、隣で静かに呑んでいた甲斐くんの肩をバシバシと叩いて言った。
「じゃあさ、秋月ちゃん!甲斐くんなんてどうよ!?経験豊富そうだし、なんだかんだで優しいし」
「か……っ!?」
私は思わず咳込んでしまう。
「いえ!いえいえいえ!!!そんな、あの!!!駄目です!!!」
ぶんぶんと何度も首を振る。
冗談でもそんなことを言われたら、甲斐くんは不快に思うはずだ。
いや、甲斐くんが本当は優しいことは私も知っている。だから不快というか、困らせてしまう、という方が正しいかもしれない。
同じ会社の人間として認めてはくれているみたいだけれど。世話の焼ける先輩、挙動不審な女――私個人にはそんなイメージしかないだろうから。
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