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クリスマスイブの、午後九時。

数人で居残りをして、何とか今日までに終わらせなければいけない仕事を片付けた。


「お疲れ様でした」

「お疲れー、秋月ちゃん悪かったねえ、せっかくのイブに残業なんてさせて」

部長にすまなそうに言われて、私は慌てて首を振った。

「いえっ!よ、予定もありませんし、お気になさらないでください!」

「とは言っても、一番若い二人が揃って残業、というのは心が痛むよ」


部長の視線の先には――パソコンの電源を切る甲斐くん。

相変わらず彼への苦手意識、というよりも恐怖心が消えない私は、まともに甲斐くんを見ることができない。


すると、甲斐くんがこちらの会話に気付いたらしく、部長に声を掛けた。


「部長、ご家族が怒ってらっしゃるんじゃないですか?消灯は自分がしておくので早く帰ってあげてください。課長も」

「確かに、女房からメールが何通も来てたが……甲斐くんこそ、彼女とか待たせてるんじゃないのかい?」

「今、そういうのいませんから」


そこで、コートを着ていた課長も話に入ってきた。


「部長、若者の言葉に甘えて我々は家族サービスに勤しみましょうや。甲斐くん頼んだよ!秋月ちゃんをちゃんと送ってやってな」

そう言って勝手に話をまとめると、部長を引っ張るようにしてさっさと帰って行ってしまう。


「あっ課長、待っ……」


課長はやっぱり、私が甲斐くんにびくびくしているのをおもしろがっているに違いない。

憂鬱な気持ちで、私はコートに袖を通した。



と、

「予定、ほんとになかったんですか?」

「えっ!?」


いきなり背後から話しかけられて、私はびっくりして声を上擦らせてしまった。


「今日。イブですけど」

「あ、ああっ、うん!な、ないよ!予定はほんとになかったから、ほんとに……」


甲斐くんに雑談らしきものを振られたのは初めてな気がして、しどろもどろに返事をする。


「ちなみに去年は」

「えっ!ええと、去年までは、じ、実家にいたので家族とケーキを食べてて、でも今年は一人だから、その、特に何も」

「そうですか」



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