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仕事ができないわけじゃない。

それでも、いつも自分に自信がなくておどおどしてしまう私は、社会人として失格だと思う。


そんな私をあたたかく受け入れてくれる今の職場に、甘えている気もするけれど、とても感謝している。

もっとがんばろうと、がんばりたいと、素直に思える。


だけど、半年前から、私はそんな職場へ行くのが、憂鬱になった。



「主任」

「は、ははは、はい!」

「これ、主任に渡せって課長に言われてた資料です」

「あ……はい、あ、ありがとうございます、ご、ごめんなさい」

「何で謝るんです」

「え、えと……甲斐くんの仕事じゃないのに、時間を取らせてしまった、ので……」

「上司に振られたんだから俺の仕事です。謝る必要はないかと」

「ごめんな……あっ、その……」


蒼白になって俯く私の頭上で溜め息をつく、後輩。

背が高く、いつも怒っているような表情でこちらを見下ろす甲斐くんが、私は怖くてしかたがない。


他の人には少しは笑顔も見せるけれど、私の前ではいつも、不機嫌そうに顔をしかめている。

威圧感、というのだろうか。

初対面でそんな彼に思いきり苦手意識を持ってしまった私の態度を、不快に感じているんだと思う。


だけど、怖い。

他の人の前ではしない失敗をしてしまうし、目を見て話せないし、近くにいるだけで顔が強張ってしまう。

社会人の『人見知り』はただの我が儘、言い訳にはならない、というのが実家の母の教訓で、だから私は社会人として何とかこの苦手意識を払拭しようとしているのに、うまくいかない。

四つも年下の相手が、怖いのだ。



――なのに。


私は甲斐くんと二人、書庫の整理を言い付けられてしまった。

課長がニヤニヤ笑いながら私と甲斐くんに命じて、私は泣きそうになった。

課長はきっと私の甲斐くんへの態度をおもしろがっているのだろうけれど、私は本当に怖いのに。


ずっと無言で整理をしていると息が詰まりそうで、全くはかどらなかった。

やがてみんな帰ってしまう。

『終わらせて帰るように』との指示を受けていた私たちは、帰れない。


完全な二人きりになってしまって、私の心は鉛のように重くなっていた。


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