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商談スペースに駆け込む。

失礼な行動かもしれないけれど、先に無礼な振る舞いをしたのは向こうだ。気にしてはいられない。


「し、失礼します……っ、岡島さん、今の言葉は、取り消してください……っ!」

「ああっ!?」


営業マンーー岡島さんは立ち上がっていて、甲斐くんは涼しい顔で座っていたけれど、私の顔を見て目を丸くした。

こんな表情は初めて見る。そんなにおかしな行動をしてしまったのだろうか、と一瞬不安になるけれど、もう口火を切ってしまった。


「お、お仕事をしに……来られているはずです、ここには。そういう言葉を使われるなら、こちらはもう……お話はできませんっ」

「何だと!?だからこっちはお前らみたいなちっぽけな会社なんていつでも、」

「私たちの立場はっ……、対等です!お互いに、お仕事をしていますっ……は、恥ずかしくありませんかっ」

「お前、侮辱する気か!?」

「……っ、そちらからの抗議は受けます、会社からの処分も受けます。でも、取り消すことは……できませんっ」


どうしてこんな、喧嘩みたいなことを、私はしているのだろう。

もう一人の私が、必死に止めている。部長に任せて、いつものようにまるくおさめてもらえばよかったのに、と。



『こちらは仕事をするだけですから』ーー甲斐くんが当たり前のように言った、その言葉のせいだ。

そう、当たり前のこと。なのに、力で捩じ伏せようとする相手にびくびくして逃げ腰になってしまう自分。そして、当たり前のこともわからない相手に、甲斐くんが罵られているという理不尽さ。

それを許してはいけない、と思ってしまったのだ。



「主任、」

立ち上がった甲斐くんが、私の肩に手を置いた。

「甲斐く、」

甲斐くんが何かを言いかけた時。


「岡島様、せっかくお越しいただいたところを申し訳ありませんが、本日はお引き取り願います」


いつの間にかそこにいた部長が、毅然と言い放った。


「な、」

「そちらも上にご報告いただき、必要であれば会社を通して抗議をしてくださって構いません。こちらも同じように致します」

「今回の話が立ち消えても、」

「恫喝されて結んだ契約は双方にとって益があるとは思えませんので、そうなればそれで、仕方のないことですな」

「……っ、そうですか!では失礼!」


顔を真っ赤にした岡島さんは、踵を返し足早に去っていった。


結局、部長に任せておけばよかったのだ。

今になって恥ずかしさが込み上げて、腰を抜かすようにどさりとソファに身体を沈めた。


「部長、甲斐くん……す、すみません……」

いたたまれなくて、顔が上げられない。

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