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結婚式があったから、有給休暇をもらった。
二次会は苦手だけれど、新婦である友人に懇願されて参加した。夜遅くなってしまったけれど明日はもともと会社が休みだから助かった。
電車を降りて、会社ビルのそばを歩いていると――
「電気、ついてる……」
ふと気づいて足を止める。
うちの会社が入っている階に電気がついているのだ。
社長が残業を嫌うため、こんな時間まで仕事をする人はめったにいない。何か緊急事態でも発生しているのでは、と不安になり、私は慌ててビルに駆け込んだ。
すると、そこに残っていたのは、
「甲斐、くん……?」
「……主任、どうしたんですか」
甲斐くんたった一人だった。
「電気がついてたから……こんな時間まで、どうしたの?」
「ちょっとミスを。休日出勤したくないので今日中に片付けようかと」
「甲斐くんがミスなんて、めずらしい、ね?」
「そんなこともないですが。――主任こそ、そんな格好でどうしたんですか」
甲斐くんは物珍しいものを見るように、私の服装を眺めながら言った。
パーティードレスにコートを羽織った姿は普段は絶対に着ないものだから、急に恥ずかしくなってくる。
「あ、結婚式だったから……ごめんなさい、仕事の邪魔をしてしまって。帰るね、無理しないで……」
回れ右をしてそそくさと退散しようとすると、「主任」と呼び止められる。
「主任のお人好しにつけこんでいいですか」
「え?」
振り返ると、甲斐くんは少し疲れた顔をしていた。
「休憩付き合ってもらえませんか。下の自販で飲み物買ってくるので」
そう言われたら帰る気にはなれない。
もちろん、帰りたかったわけではなくて誰かがいたら手伝うつもりだったのだけれど。
「あ、それなら私、コーヒー淹れてくるよ。甲斐くんはゆっくりしててください」
「じゃあお言葉に甘えます」
「うん。ちょっと待っててね」
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