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「えっ!?あっ!」
「停電、ですね」
突如、部屋が真っ暗になった。
換気用の小窓しかない書庫は、深い暗闇になってしまう。
たまたま甲斐くんがすぐそばにいたから、恐怖は少しだけ軽減されている。
でも、周りが全く見えないから身動きが取れない。書庫はオフィスから少し離れているから、職場のみんなの様子も聞こえてこない。
雨と風の音。紙のにおい。甲斐くんの気配。
私が感じられるのはそれだけだった。
「主任、大丈夫ですか」
「う、うん……まっくらだね」
「危ないから動かないでください」
「あ、はい……」
「……暗いのも、苦手ですか」
「…………」
「腕、貸しましょうか。何か掴んでたら少しはましじゃないですか」
「えっ!だ、大丈夫で……大丈夫だよ」
「そうですか。すぐ復旧するでしょうからとりあえずじっとしてましょう」
「うん……」
甲斐くんのおかげで、パニックにならずにすんだ。
いまだに少し怖い存在だけど、こういうときには現金にも、頼もしく感じてしまう。
――が。
一瞬視界が真っ白になったと思うと、裂けるような激しい音がして、建物が少し揺れた。
「……っっ!!!!!」
叫ばずにすんだのは、奇跡に近い。
職場にいる、というなけなしの自覚が、なんとか悲鳴をこらえさせた。
けれど、雷鳴は止まず、身体ががくがくと震えた。
「主任」
「はっ、はいっ!!!」
「声、上擦ってますよ。平気ですか」
「だい、だ、だ大丈夫ですっ!!!」
「あ、光った。またでかいの来ますよ」
「い、いやっ……!」
小さく叫んでしまって、後悔する。
こういうときこそ冷静でいたいのに。
と、
「っ!?甲斐くん!?」
「見てられないので。いや、見えませんけど」
甲斐くんが私の右手を引いたと思うと、彼の腕を掴ませた。
「とりあえず持っててください」
「で、でも悪い……きゃあっ!」
手を離そうとしたところでまた大きな音が響いて、むしろ強く掴んでしまう。
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