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「ふうん……あっ、さては甲斐あんた二次会から逃げる魂胆だな?まあそれだけじゃないんだろうから一石二鳥ってわけか。抜目ない奴め!」
ニヤニヤ顔で不可解なことを言いながら、係長は私を甲斐くんに託してしまった。
さすがに肩を借りることはしなかったけれど、会社の皆に妙に楽しげに見送られ、甲斐くんと二人、店を後にする。
『やっぱり係長送ってください』なんて、言えるわけがなかった。
「意外ですね」
夜道をゆっくり歩きながら、甲斐くんがぽつりと言った。
「え?な、何が?」
「主任が誰とも付き合ったことがないのが」
意外、と言われるのが意外だった。特に甲斐くんに。
「あ、あの、もしかして、気をつかって……くれてる……?」
「気を遣ってるなら蒸し返しません」
ぴしゃりと言われてしまった。
「意外、かなあ」
自分ではそうは思わないから、どう反応したものか迷ってしまう。
いい意味で言われたんだろうか。いや、いいも悪いも特に意味はないのだろうけれど。
「あ、も、もちろん、好きな人くらいは、いたよ?」
何の言い訳なのか、私は慌てて言った。
甲斐くんはそれには何も答えず、
「俺は駄目ですか」
「……え?」
「さっきの。あまりにも勢いよく拒否してたので」
「あっ!」
課長にからかわれたときのことだと思い出す。
「い、いや、あのねっ?ち、ちがうの!そうじゃなくて……そのっ……甲斐くんがどうこうじゃなくて私が駄目だっていう意味でっ……!」
たしかに、甲斐くんの名前が挙がったからこそあんなにも動揺したのは間違いない。
だけどそれは甲斐くんが嫌だとかそういうことではなくて、想像もできないくらい、あまりにも、釣り合わないだろうと思ったからだった。
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