四つ葉堂書店 | ナノ


 

リクエストがない日もしょっちゅうなのに、四つ葉堂書店には定休日がある。

そんな日でも、私はこの店にやってくる。


店の鍵を開けて書棚の林を抜け、奥の階段を上る。

すると二階は、さらなる本の森だ。

そこを通り抜けると、あまり広いとはいえない静さんの生活空間がある。


「見られて困るものはないし、勝手に入っていいよ」と言われているから、その言葉に甘える。


店が休みだと、静さんはいつもより少しだけ機嫌がよくて、最近気に入っている本の話をしてくれたりするから、実は楽しみにしているのだ。



「静さん、こんにちは……もう夕方だからこんばんは、かな?」

部屋をのぞきこむと、いつもの場所に静さんはいなかった。

普段はだいたい、ぽつんと置かれた机で本を読んでいる。つまりは店にいるときと変わらないのだけれど。


「……静さん?」

さらに奥に進むと、畳の間の窓際で、静さんがあぐらをかいて座っていた。

いつもの書生服ではなくて、初めて見る着流し姿。

腕を窓枠に置き、もたれかかるように空を眺めている。


足元には一升瓶が二つ、一本は空だ。
右手には…何故か湯呑み。


「……お酒、飲んでるんですか?」


その声に、やっと静さんが振り返った。

顔色は変わらないけれど、いつもよりさらにけだるげだ。


静さんはこちらを見て、わずかに微笑んだ。

「漬けた大根がね、妙においしかったからお酒が飲みたくなったんだ」


よく見ると、小さな皿に漬け物が載っていた。

そういえば家庭菜園で育てていた大根を、この前収穫していた。

本を読むことと家庭菜園だけ、静さんは熱心だ。


静さんは長いため息をひとつついた。

「……今日はいつもより酔いがまわるのが早い気がする。緑ちゃん、悪いけど水をくれないかな」

「はい」


一升瓶を空けておいて、しかも素面同然の顔色で『酔いがまわる』なんて説得力がないけれど、立ち上がろうともしないあたり、本当に酔っているのかもしれない。


prev / next

back/top




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -