▼ 1:書道部の勝利投手
同窓会から帰って来た僕の妻が、「あいつに告白されちゃった」と言った。
『あいつ』とは、妻の小学校からの同級生で、野球部だった、彼のことだ。
妻は、彼のことを信頼していて、大切な親友だと思っていた。
彼も、妻のことを大切に思っていた。
――ただし、彼の気持ちは、妻のとは違っていた。
僕と、同じ気持ちだった。
気付いていないのは妻だけだった。
「エースになれたら告白するつもりだった、なんて言って」
彼らしい、と思った。
『逃げ』だと言っていたようだが、律儀で誠実で、変なところが頑ななイメージ。
そして僕は、それをいいことに、妻をかっさらったのだった。
「負け投手とか敗戦処理とか言ってね、すぐ野球に例えるんだから、あいつ」
だとしたら、僕が勝ち投手、ということになるだろうか。
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