▼ 4:憧れと…
俺の同僚であるあいつは、器用な男だ。
そんなに愛想がいいわけでもないのに、取引先や上司からの評判もよく、女からもそこそこもてる。
以前、職場の女二人と一緒に、あいつの草野球の試合を見に行ったことがある。
(女たちが「応援行くよ!」と言ったらあいつが「ああ、来ていいよ」と返し、その場にいた俺は運転手に選ばれてしまったのだ)
その試合の後、二人ともあいつに惚れてしまったらしい。
もっとも、前からそれなりに好感は持っていたようだったが。
あいつはセカンドを守っていて、野球をしていても器用だった。
連携プレーの多いショートの奴が、これまた上手くて、そのうえやたらと楽しそうに野球をしていた。
あいつは、ショートのようには笑わず、涼しい顔で球をさばいていた。
だけど、ショートはそんなあいつを信頼していて、二人は仲がいいんだろうと、容易に想像できた。
その試合から半月ほど経って、その時の女の片方と、あいつが付き合い始めた。
振られた方の女を、俺はひそかに好きだったが、失恋のショックにつけ込みきれなかった。
prev / next
(1/3)